水陸両用機

水陸両用機とは

水陸両用機（すいりくりょうようき、英語: amphibious aircraft または amphibian）は、舗装された滑走路のような陸上環境と、湖や海面のような水上環境の、両方から離陸し、また着陸することができる特殊な航空機です。この能力は、通常の陸上専用機や純粋な水上機にはない、大きな運用上の柔軟性をもたらします。

設計の特徴と課題

水陸両用機は、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、機体自体がボートのような構造を持ち、水に浮く「飛行艇」タイプに、陸上用の格納式車輪を備えたものです。もう一つは、機体下面に大きなフロートを持つ「フロート水上機」タイプで、このフロート内部に格納式の車輪が装備されています。

どちらのタイプも、陸上機や純粋な水上機と比較すると、着陸装置の追加や機体構造の強化が必要となるため、重量が増加し、構造が複雑になりがちです。このため、同等サイズの陸上機に比べて、一般的に速度が遅く、航続距離や燃費の点で不利になる傾向があります。また、雪や氷上にも着陸できるよう、強化されたキール（竜骨）を備え、車輪を上げたまま滑走できる機体は、「トライフィビアン（Tri-phibian）」と呼ばれることもあります。

飛行艇タイプや、中央に大きなフロートを持つフロート水上機は、水上での横安定性を確保するために、翼端などにアウトリガーフロートが必要です。これが翼が水面を叩くのを防ぎますが、固定式の場合は空気抵抗や重量が増加し、陸上での運用時には障害物になる可能性があります。そのため、格納式のアウトリガーフロートを採用する機体も多いですが、これもまた構造の複雑化や重量増につながります。ドルニエ シースターのような機体は、翼の付け根にスポンソンと呼ばれるスタブウィングを設けることで安定性を得る方法もあります。

通常の水上機（飛行艇やフロート水上機）を水上から陸上へ移動させる際に使用する「ビーチングギア」は、水陸両用機の着陸装置とは異なります。ビーチングギアは、航空機を水から引き揚げて地上を短距離移動させるための台車や一時的な車輪であり、航空機の着陸衝撃に耐える設計にはなっていません。水陸両用機は、乗員が水に入る必要なく、自身の着陸装置で水面から陸上へ移動できます。ただし、完全な着陸装置は重いため、一部の機体は自身のビーチングギアを携行する設計を採用している場合もあります。

運用上の危険性

水陸両用機を運用する上で特に注意が必要なのは、離着陸時に車輪が正しい位置にあるかを確認することです。パイロットは着陸する場所（陸上か水上か）に応じて、車輪を格納するか展開するかを確実に選択しなければなりません。車輪を格納したまま陸上に着陸すると機体下面が損傷する可能性があり、逆に車輪を展開したまま水上へ着水すると、機体が転覆し、重大な事故につながる危険性が極めて高いからです。

用途と利点

構造の複雑さや性能のトレードオフがあるにも関わらず、水陸両用機はそのユニークな能力により多岐にわたる用途で活躍します。特に滑走路が少ない遠隔地や水辺が多い地域での軽輸送、「ブッシュプレーン」としての運用に適しています。また、ヘリコプターと比較すると、同等の費用でより高速かつ長距離の飛行が可能となる場合があり、長距離の海難救助任務などにも利用されます。新明和US-1AやボンバルディアCL-415といった機体は、その代表例です。

歴史的背景

水陸両用機の開発は、特に第一次世界大戦と第二次世界大戦の間、イギリスやアメリカで盛んに行われました。イギリスではビッカース バイキングやスーパーマリン シーガルが初期の例で、探検や軍事用途（捜索救助、対潜哨戒など）に用いられました。アメリカではシコルスキーが探検や初期の航空路線開拓のために多くの水陸両用機を生産し、グラマンも民間および軍事向けの機体を開発しました。コンソリデーテッド カタリナは、後に純粋な飛行艇から水陸両用型も開発され、第二次世界大戦中に広く使用されました。

戦後、ヘリコプターの性能向上により、特に荒れた海上での運用能力が必要とされる分野では水陸両用機が代替される動きが進みました。しかし、ロシアやイタリアなど、水上機開発の歴史を持つ国々でも水陸両用機の開発は続けられています。シャブロフ Sh-2、ベリーエフ Be-12、そして現代のベリーエフ Be-200などがあります。

現代では、アラスカやカナダ北部のような広大な自然環境を持つ地域で、民間輸送手段として多くの水陸両用機が活躍しています。また、特別な水陸両用フロートの開発により、既存の陸上機を水陸両用化することも可能になっています。

大規模な量産は限られますが、ボンバルディアCL-415のような消防飛行艇や、セスナ 208の水陸両用型、あるいはホームビルト機の世界では、依然として水陸両用機が生産・運用されています。

（出典や関連項目については、一般的な辞書形式から割愛します）

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