決心

決心（けっしん）とは

「決心」とは、軍事作戦や戦闘の局面において、指揮官が部隊の行動をどのように進めるかを定める、極めて重要な意思決定を意味します。

軍事問題に取り組む上で、刻々と変化する状況を的確に判断し、それに基づいて適切な決心を下すことは、一貫性のある効果的な軍事行動を展開するための必須条件となります。この「決心」が求められる領域は多岐にわたり、国家の政策や大規模な戦略、具体的な作戦や戦術レベルにとどまらず、部隊の運営に関わる軍事行政、物資の補給や輸送を担う兵站、そして情報収集や分析を行う諜報といった分野にも及びます。

特に、公共的な性格を持つ軍事問題においては、他の公共政策と同様に、その決心が合理的な選択、すなわち設定された目標を達成するために最も有効と考えられる手段が選ばれなければなりません。この合理性を追求するための分析手法として、数学的なモデルを用いたアプローチが広く用いられます。この手法を用いる場合、直面する状況下で想定される様々な方針それぞれについて、その実施にかかる費用と期待される効果を詳細に分析し、相互に比較評価することが必要となります。

数学的モデルに基づいて決心問題を考察する立場に対しては、現実世界の複雑さをモデルが十分に捉えきれていないという批判が存在します。しかし、この問題の本質はモデル自体の単純さにあるのではなく、現実との適合性、つまりモデルが現実にどれだけ即しているかという点にあります。モデルの適合性を向上させるためには、いくつかの原則があります。まず、モデルの構築にあたって設定した様々な前提を明確にすること。次に、モデルから導き出された結果が再現可能であること。そして、モデルが比較的複雑な問題にも対応できる能力を持つことが求められます。

モデル化のプロセス

軍事における決心を支援するためのモデル化は、通常いくつかの基本的な段階を経て行われます。

第一段階として、対象となる環境の分析と、想定されるシナリオの定義が行われます。環境分析では、様々な手段の費用と効果に影響を及ぼす可能性のある全ての要素を取り上げます。これには、自軍や敵軍の戦力、存在する脅威、経済的な情勢、政治的な状況といった環境要因を変数として捉えることが含まれます。これにより、分析に必要な幅広い範囲のシナリオを想定することが可能になります。

第二段階では、定義されたシナリオの下で、決心の前提となる実行可能な選択肢全てを明確に定義します。これは、指揮官が達成を目指す目標に対して影響を与えうる全ての要因を体系的に整理し、関連付ける作業です。

第三段階では、一般化されている目標をさらに詳細に分析し、より具体的で明確な表現に落とし込みます。そして、その目標がどのようにすれば達成可能であるかを具体的に明らかにします。

続く第四段階では、費用と効果の関係を示すモデルを構築します。このモデルを用いて、定義された全ての選択肢が、どのような費用を要し、どのような効果をもたらすのかを詳細に分析します。

最終段階として、各シナリオの下で指揮官が選択可能な各手段について、前段階で分析した費用対効果を比較検討します。この比較検討を通じて、決心を行う上で必要な判断材料を整理し、最も合理的な選択肢を特定しようとします。実践的なモデル分析においては、これらの段階を必要に応じて繰り返し行うことで、モデルの有効性を高め、より現実に即した精度の高い決心支援を目指します。

モデル分析の例

軍事における決心支援のために開発されたモデル分析の手法には、いくつかの確立された例があります。

その一つに、フーバーによって提唱された定量的なモデルがあります。このモデルは、特に核戦力を除くヨーロッパ地域における戦略的な安定性を分析することを目的として開発されました。戦闘の結果を数値化された予測として示すことで、指揮官の決心に客観的な根拠を提供することが可能です。

また、ゴードらによって作成された「影響ダイアグラム」という異なるタイプのモデルがあります。これは、紛争状況下におけるある軍事行動が、他の軍事行動にどのような影響を及ぼすかを模式的に図示したものです。例えば、北大西洋条約機構（NATO）軍がノルウェー海を制圧する行動は、ノルウェーへの増援部隊派遣を容易にするだけでなく、ソビエト軍によるアイスランドへの攻撃を抑制し、さらにソビエト軍の大西洋における支配力を弱めるという複数の影響をもたらすことを、このダイアグラムは視覚的に示します。このように、個々の行動が相互にどのように作用するかを図解するのが影響ダイアグラムの特徴です。

さらに、モデル分析の手法としては、単一のシナリオを想定し、そのシナリオ下での費用対効果に特化して分析を行う方法も開発されています。この方法では、基準となるシナリオ、あるいは最も悪い状況を想定した「最悪の事態」シナリオなどを基準として設定し、様々な手段の費用対効果を相互に比較検討しやすくすることを目的としています。

これらの多様なモデル分析の手法は、複雑な軍事状況における指揮官の「決心」を、より合理的かつ効果的なものとするための重要なツールとして活用されています。

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