決闘罪ニ関スル件

決闘罪ニ関スル件とは

「決闘罪ニ関スル件」（明治22年12月30日法律第34号）は、日本において決闘行為、そしてそれに付随する様々な関与行為を禁止するために定められた法律です。この法律は、1889年12月30日に世に知らされました。

法律の概要

全部で6つの条文から構成されるこの法律は、単に実際に決闘を行った者だけでなく、決闘を申し込んだ人、それに応じた人、さらに決闘の立ち会いをした人や証人、付添人、そして決闘の場を提供した人など、決闘に何らかの形で関わった全ての人が処罰の対象となり得る点が特徴です。

ただし、具体的にどのような行為が罪となるか、そしてどのような刑罰が科されるかは、その関わり方によって細かく定められています。

決闘を挑んだ者または応じた者（第1条）：6か月から2年以下の懲役
実際に決闘を行った者（第2条）：2年から5年以下の懲役
決闘の立会人、または立会いを約束した者（第4条第1項）：1か月から1年以下の懲役
事情を知りながら決闘のために場所を提供・貸与した者（第4条第2項）：1か月から1年以下の懲役

もし決闘の結果、相手を殺傷するに至った場合（死亡や傷害を負わせた場合）は、この決闘罪による刑罰と、刑法に定められている殺人罪や傷害致死罪、傷害罪による刑罰を比較し、より重い方の刑罰が適用されます（第3条）。例えば、決闘で相手に傷害を負わせた場合、決闘を行った罪の法定刑は懲役2年から5年ですが、傷害罪の法定刑は罰金から懲役15年です。この場合、下限は決闘を行った罪の懲役2年が、上限は傷害罪の懲役15年が採用され、結果として2年から15年の懲役刑が科されることになります。

また、相手が決闘の申し出に応じなかったことを理由に、その人の名誉を傷つける行為も禁止されており、これは刑法上の名誉毀損罪として処罰されます（第5条）。

「決闘」の定義

この法律において「決闘」が何を指すかについては、過去の判例によって解釈が示されています。明治40年（1907年）の大審院の判例では、「当事者が合意の上、凶器の有無や対等であるかに関わらず、身体や生命を傷つけ合う目的で行う暴力行為」と定義されました。また、昭和26年（1951年）の最高裁判所判決では、「当事者間の合意に基づき、相互に身体または生命を害することを目的とする暴行をもって争う行為全般」を指し、必ずしも相手を殺す意図は必要ではないと補足されています。

ただし、スポーツとしてのボクシングの試合やスパーリングのように、社会的に認められたルールの下で行われる行為は、その性質上、この法律における「決闘」には該当しないと解釈されています。

法律制定の背景

この法律が制定される以前の日本では、決闘に関する統一的な法規が存在しませんでした。ヨーロッパ諸国では歴史的に決闘が必ずしも違法とされなかった時期があったことや、日本古来の「果し合い」といった風習の影響もあり、決闘が犯罪として扱われないケースも見られました。しかし、このような行為が社会の秩序を乱し、悪影響を与えることから、これを明確に禁止する必要性が高まり、本法が制定されるに至りました。

特に制定の一因となったとされるのが、明治21年（1888年）に起きたある事件です。雑誌『日本人』の社員が高島炭鉱の惨状を報じたところ、犬養毅がこれを新聞で否定したため、雑誌社員が仲介人を立てて犬養に決闘を申し込むという事態が発生しました。犬養はこれを野蛮な風習として拒否しましたが、同時期に「決闘は文明の華」といった決闘を擁護する論説が現れるなど、世論を二分する議論が巻き起こりました。このような決闘を巡る出来事が相次いだことが、法律制定を後押しする一因となったと言われています。

現代における適用

「決闘罪ニ関スル件」は、明治時代に制定されて以来、長い間、実務で適用される機会がほとんどなく、昭和後期や平成初期には「過去の遺物」と見なされることもありました。しかし、近年になって少年同士の「タイマン」と呼ばれる果たし合いがこの法律上の「決闘」に該当するという司法判断が示されてから、状況は一変しました。

これにより、暴行罪や傷害罪といった他の法律では立件が難しかったり、事件の解決に至らなかったりするケースにおいて、本法を適用することで事態を打開する道が開かれ、その価値が見直されることとなりました。検察庁の統計によると、決闘罪として立件された人員は2005年には34名に上っています。適用される事例は他の犯罪に比べて少ないため、この法律が適用されて立件されたというだけで、メディアが注目し報道することもあります。

かつての「過去の遺物」から、現代社会における新たな適用事例によって再びその存在意義を示すこととなった「決闘罪ニ関スル件」は、日本の法制度史の一端を示す興味深い法律と言えるでしょう。

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