沙耶の唄

沙耶の唄：狂気に染まる世界と、少女の温もり

2003年12月26日、アダルトゲームブランド・ニトロプラスから発売された『沙耶の唄』は、虚淵玄氏による脚本が特徴的な作品です。5時間程度のプレイ時間で3つのエンディングを用意し、4800円（税別）という低価格で販売されました。これは、当時としては廉価版と言える存在でした。

本作は、手塚治虫氏の漫画『火の鳥・復活編』へのオマージュや、クトゥルフ神話の要素を巧みに取り入れています。直接的な設定や用語は少ないものの、狂気、異界、禁忌といった雰囲気は作品全体に漂い、プレイヤーを独特の世界観に引き込みます。

その後も、『沙耶の唄 Nitro The Best! Vol.2』（2009年）、BD-PG移植版（2013年）、Android版（2013年）と、様々なプラットフォームでリリースされ、2018年には大槻涼樹氏と虚淵玄氏によるノベライズも出版されました。 これらの移植や派生作品は、作品の人気を示す大きな指標となっています。

ストーリー：歪んだ現実と、唯一の救い

主人公の匂坂郁紀は、交通事故によって生死の境をさまよい、奇跡的に一命を取り留めます。しかし、後遺症により知覚異常を患い、世界が歪んで見えるようになってしまいます。街並みは生々しい臓物で覆われたように見え、人々はグロテスクな肉塊と化し、音や感触も常軌を逸していました。

この異常な世界の中で、郁紀は孤独な入院生活を送ります。そんな彼に救いの手を差し伸べたのが、沙耶という謎めいた少女でした。沙耶だけは、郁紀の歪んだ視界の中でも普通の人間の姿で映り、温もりすら感じられました。郁紀は沙耶に惹かれ、彼女を自宅に招き、共に暮らすようになります。

しかし、それは真の狂気への序章に過ぎませんでした。沙耶の正体、そして郁紀を待ち受ける運命とは一体何なのか？物語は、予測不能な展開へと進んでいきます。

登場人物：それぞれの葛藤と運命

物語を彩る登場人物たちも、個性豊かに描かれています。

匂坂 郁紀: 交通事故による後遺症で世界が歪んで見えるようになった医大生。孤独を深めていく中で、沙耶と出会う。
沙耶: 郁紀の前に現れた謎の少女。失踪した父親を探している。郁紀にとって、狂気に満ちた世界における唯一の安らぎの存在。
戸尾 耕司、高畠 青海、津久葉 瑤: 郁紀の友人たち。事故後の郁紀の変化に戸惑いながらも、彼を心配している。
丹保 涼子: 郁紀の主治医。郁紀の異変に気づき、彼の秘密を探ろうとする。
鈴見 洋祐: 郁紀の隣人。郁紀の変化に不快感を抱いている。
奥涯 雅彦: 沙耶の父親で、元大学教授。不祥事を起こし、失踪したとされている。

これらの登場人物たちが織りなす人間ドラマも、『沙耶の唄』の魅力の一つです。

音楽とスタッフ：高いクオリティを支える技術

『沙耶の唄』の音楽はZIZZ STUDIOが担当し、いとうかなこ氏がボーカルを務めました。エンディングテーマの「ガラスのくつ」は、本作のために作られた曲ではなく、ZIZZ STUDIOの既存曲の中から虚淵玄氏が選曲したというエピソードも存在します。

スタッフ陣も、業界で著名な人物が名を連ねています。キャラクターデザインの中央東口氏、シナリオの虚淵玄氏、音楽のZIZZ STUDIOなど、それぞれの分野で高い技術を持つプロフェッショナルたちが集結し、本作の高いクオリティを支えました。

関連作品と話題性：長く続く人気

『沙耶の唄』は、オリジナルサウンドトラックCD、レコード、公式設定資料集、そしてノベライズなど、様々な関連商品が発売されています。さらに、海外でも漫画版が刊行されるなど、世界的な人気を誇ります。

特に、虚淵玄氏が後に手掛けた『魔法少女まどか☆マギカ』の大ヒットによって、本作も再評価され、多くの注目を集めました。また、『ニトロ+ロワイヤル -ヒロインズデュエル-』や『ニトロプラス ブラスターズ -ヒロインズ インフィニット デュエル-』といった作品にも、沙耶が登場するなど、他の作品との繋がりも存在します。

『沙耶の唄』は、独特の世界観、魅力的なキャラクター、そして重厚なストーリーで、多くのプレイヤーを魅了し続けている、名作と言えるでしょう。

もう一度検索