泥田坊

泥田坊（どろたぼう）

泥田坊は、日本の妖怪の一種であり、鳥山石燕の画集『今昔百鬼拾遺』に描かれています。彼の描く泥田坊は、特徴的な顔立ちを持ち、片目と三本の指を持つ手、そして泥田から上半身だけを現した姿で表現されています。

伝説の起源

この妖怪にまつわる伝説はある特定の地域や文献には確認されておらず、主に石燕の解説文からの引用で成り立っています。解説文によると、北国に住むある翁は、自身の田を耕し、子孫のためにその土地を遺しました。しかし、その息子は農業を全く継がず、酒に溺れ田を売り払ってしまいました。その後、夜に田に現れる一つ目の者が「田を返せ、田を返せ」と叫んでいたと言われています。この内容は、現代の文献に明確に存在するものではなく、主に石燕による創作と考えられています。

昭和や平成以後の文献では、泥田坊は農業をことごとく放棄した息子に怨まれた祖父が妖怪と化した存在として解釈されています。このような解釈が広まった背景には、農業が持つ重要性や、家族の絆が薄れることから起こる人間の業が影響していると考えられます。

小説家・山田野理夫は、山形県での逸話として「ドロ田坊」という物語を描いています。この物語では、怠け者の妻アキが若者と密会する様子や、その結果、泥だらけの坊主である泥田坊が彼女に忠告をするという内容が描かれており、伝承が新たに創作された一例となっています。

解釈の多様性

泥田坊に関する具体的な伝承は『今昔百鬼拾遺』以外には見られないため、様々な解釈が存在します。国文学者阿部正路は、泥田坊の三本指が持つ意味について考察し、彼が悪徳のみで生きる存在であるとしています。また泥田坊という言葉の由来についても、何かを台無しにすることを意味する諺、「泥田を棒で打つ」から来ているという説があります。これは石燕が命名の際に考慮した可能性があります。

さらに、紀州藩の医師であり狂歌師であった品川玄湖が創作した「泥田坊夢成」という雅号が由来ではないかとも言われています。一方で、妖怪研究家・多田克己は、泥田坊の存在は石燕による言葉遊びで、吉原の遊廓に関連があると考えています。江戸では「北国」が新吉原の隠語とされ、泥田坊の物語には社会の含蓄や経済的な問題が隠されているのかもしれません。

結論

泥田坊は、日本の妖怪の中でも特異な存在であり、その姿や背景には多くの解釈が含まれています。農業や家族、怨念といったテーマが絡まり、魅力的な物語を生み出しました。日本の妖怪文化の中でも、泥田坊は興味深い存在であり、今後もさらなる研究が期待されます。

もう一度検索