灼熱の魂

灼熱の魂：レバノン内戦の傷跡と母子の愛憎を描くカナダ映画

2010年公開のカナダ映画『灼熱の魂』(Incendies)は、レバノン内戦という混沌とした時代を背景に、母と子の複雑な関係と、隠された衝撃的な真実を描いた作品です。ワジディ・ムアワッドの戯曲を、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が映画化しました。

ストーリー：母の死が引き起こす、過去への旅

舞台はカナダ・ケベック州。アラブ系移民の母ナワルを亡くした双子の姉ジャンヌと弟シモンは、母の遺言書を受け取ります。そこには、母の独特な葬儀の指示と、父と兄への2通の手紙が同封されていました。父と兄の存在を知らなかったジャンヌとシモンは、母の遺志を継ぎ、中東へと旅立ちます。

一方、シモンは母への反発から旅には同行せず、カナダにとどまります。

物語は、35年前の中東へと遡ります。内戦のさなか、キリスト教徒とイスラム教徒の対立が激化する中、若いナワルはイスラム教徒の青年と恋に落ち、妊娠します。しかし、この恋は一族から許されず、青年は殺害され、ナワルも命の危険にさらされます。祖母に救われたナワルは、生まれた息子ニハドを孤児院に預け、一人で過酷な運命を生き抜いていきます。

内戦激化の中、ナワルは孤児院のある南部に向かいますが、孤児院は破壊され、息子の消息は途絶えます。悲しみと怒りに燃えるナワルは、イスラム教徒の抵抗勢力に加わり、政府要人を暗殺するという過激な行動に出ます。

ジャンヌは、母の故郷の村を訪れますが、村人たちはナワルを裏切り者と罵り、拒絶します。そこで、ナワルが15年間も獄中で「歌う女」として拷問を受けながら、信仰と誇りを持ち続けた過去を知ることになります。

監獄で、ナワルは凄腕の拷問人アブ・タレクと出会い、レイプされ子供をもうけます。その子供こそが、ジャンヌとシモンだったのです。シモンも中東へ向かい、兄ニハドの足取りを辿ります。そして、ニハドが孤児院から拉致され、イスラムの戦士となり、後にキリスト教徒に捕らえられ、アブ・タレクとして拷問人になったという衝撃の事実を突き止めます。

アブ・タレクはカナダに移住し、普通の生活を送っていました。ナワルはアブ・タレクを息子と知ったショックで亡くなります。ジャンヌとシモンは、母の遺言通りにアブ・タレクに2通の手紙を手渡します。一通は、彼らがアブ・タレクの子供であることを告げる手紙。もう一通は、母としての愛情を込めた手紙でした。

キャストと評価

ナワル役にはルブナ・アザバル、ジャンヌ役にはメリッサ・デゾルモー＝プーラン、シモン役にはマクシム・ゴーデットなど、実力派俳優が名を連ねています。

Rotten Tomatoesでは高い評価を得ており、アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされました。カナダではジェニー賞、ジュトラ賞を多数受賞しています。日本ではキネマ旬報ベスト・テン外国映画部門にもランクインするなど、高い評価を得ています。

まとめ：忘れかけていた記憶を呼び覚ます、母と子の物語

『灼熱の魂』は、レバノン内戦の残酷さと、その中で生き抜いた女性の強さ、そして母と子の複雑な愛憎を描いた、忘れがたい感動的な作品です。暴力と悲しみ、そして希望と愛が複雑に絡み合う物語は、観る者の心に深く刻まれるでしょう。母と子の絆、そして紛争の爪痕といった重いテーマを、丁寧に描き出している点に、本作の魅力があります。

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