狼森と笊森、盗森

『狼森と笊森、盗森』

宮沢賢治による童話『狼森と笊森、盗森』は、彼が生前に発表した唯一の作品集『注文の多い料理店』に含まれている貴重な作品です。この物語は、岩手県の小岩井農場近くに位置する4つの森と、それに住む村人たちとの不思議な交流を描いています。特に、森が村人たちに与える影響や、彼らの成長と友情をテーマにしています。

刊行の経緯

『狼森と笊森、盗森』は、賢治の他に及川四郎や発行人である近森善一の協力によって、自費出版に近い形で発行されました。しかし、当初は評価が低く、あまり知られていない作品でした。

物語の背景

物語は大昔、岩手山が噴火し原始的な自然が広がっていた頃を舞台にしています。やがて、草木が生い茂り、四つの森が形成される様子が描かれます。ある秋の日、4人の男たちがこの地に入植することを決意し、家族を呼び寄せます。村人たちは、北にある森に対して畑の設置や火の使用、木の伐採などの許可を求めます。森は彼らに対して冬の寒さから身を守るための風避けとなり、その後、徐々に村の生活が豊かになっていきます。

あらすじ

入植の1年目の秋、村人たちは小屋を増やし、初めての収穫を喜んでいましたが、ある日小さな子供4人が行方不明になります。これを聞いた村人たちは慌てて森へと向かいますが、森は「知らないぞお」と言いつつも彼らを森に招き入れます。村人たちは狼森に足を踏み入れると、子供たちがオオカミたちにもてなされている姿を見つけ、物々交換を通じて友好的な関係が築かれます。

2年目の秋、村に新しい命が生まれ、さらなる繁栄を迎えますが、またしても農具が消失してしまいます。困った村人が訪れた笊森では、不思議な山男が待ち受けており、農具との引き換えに粟餅を要求されます。このような出来事を経て、村と森の関係は徐々に深まっていきます。

3年目の秋には、村は豊作を迎えますが、またしても不運が襲い、収穫物すべてが消えてしまいます。村人たちは再び森に向かい、ついには盗森の存在に怒りを覚えますが、岩手山が仲裁に入り、無事に問題は解決します。結局、4つの森と村人たちは互いに粟餅を贈り合い、友好的な関係を維持することになります。

物語の結末では、黒坂森の大岩が時節に対する感慨を口にして物語が締めくくられます。このように、村人と森たちとの交流が生み出す温かい友情の姿が描かれ、自然と共存する大切さが感じられる作品となっています。

地理的設定

物語に登場する狼森、笊森、黒坂森、盗森は実在する場所であり、いずれも小岩井農場に近い地域に位置しています。それぞれの場所が物語にリアリティを与え、より親しみやすい舞台設定となっています。

この作品を通じて、宮沢賢治の自然観や人間関係への深い洞察が感じられ、人と自然との調和を考えさせられる内容に仕上がっています。

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