璃寛茶

璃寛茶：江戸時代の流行色

江戸時代、人々の心を捉えた数々の流行色の中でも、璃寛茶（りかんちゃ・りくわんちゃ）は独特の存在感を放っています。その魅力を探るため、この色と時代背景を深く掘り下げてみましょう。

璃寛茶は、暗い緑がかった茶色と表現されます。染色解説書『手鑑模様節用』には、藍媚茶（あいびちゃ）という別名も記されており、オリーブグリーンに近い茶色を想像させます。

この色の名前の由来は、文化・文政期（1804～1830年）に京阪で活躍した歌舞伎役者、二代目嵐吉三郎にあります。彼の俳名「璃寛」から名付けられたこの色は、当時の若者を中心に人気を博しました。

同時期、京阪で活躍したもう一人の人気役者、三代目中村歌右衛門（俳名：芝翫）も、自身の名前から「芝翫茶」という色名を世に残しています。吉三郎と歌右衛門は、大阪の人気を二分するほどの存在感を持っていました。

二人の役者には、明確な違いがありました。歌右衛門は、小柄で地味な容姿ながら、優れた作劇の才能と幅広い演技力で歌舞伎通を魅了しました。一方、吉三郎は端麗な容姿で知られ、色男役を演じ、絶大な人気を誇っていました。

この個性と人気が、それぞれの好みに関連づけられた色のイメージにも反映されていると考えられます。壮年の歌舞伎通に好まれた芝翫茶に対して、璃寛茶は若者を中心に人気を博しました。これは、吉三郎の色男役としての魅力と、璃寛茶が持つ洗練された、それでいてどこか若々しい雰囲気とが合致していたからでしょう。

時代を彩った流行色は、単なる色の流行にとどまらず、当時の社会情勢や文化、そして個々の役者の人間性や人気までも映し出しています。璃寛茶は、華やかな江戸時代の文化の一端を垣間見せてくれる、貴重な色のひとつと言えるでしょう。

他の役者と好まれた色

時代には、他にも歌舞伎役者と結び付けられた色がありました。

路考茶（ろこうちゃ）： 二代目瀬川菊之丞好みの色
梅幸茶（うめこうちゃ）： 初代尾上菊五郎好みの色
芝翫茶（しかんちゃ）： 三代目中村歌右衛門好みの色
団十郎茶（だんじゅうろうちゃ）： 市川家の家色

これらの色は、それぞれの役者の個性や人気、そして当時の美的感覚を反映しており、江戸時代の多様な色彩文化を物語っています。

参考文献

福田邦夫『すぐわかる 日本の伝統色』東京美術 ISBN 4-8087-0784-5
吉岡幸雄『日本の色辞典』紫紅社 ISBN 4-87940-549-3

これらの文献は、日本の伝統色についてより深く知りたい方にとって、貴重な情報源となるでしょう。

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