番太

江戸の闇を支えた者たち：番太の真実

江戸時代の都市において、夜間の治安維持や犯罪者の取り締まり、そして時に恐るべき刑罰執行に携わった人々、それが番太です。彼らは、都市の門に隣接した粗末な番小屋を住まいとし、多くは社会的に低い身分である非人に属していました。番太郎と呼ばれることもありました。

番太の仕事内容は多岐に渡りました。夜警として街の安全を見守り、浮浪者を取り締まり、牢獄や刑場での雑用をこなすだけでなく、時には死刑執行といった、現代の感覚からすれば想像を絶する重労働も担っていました。彼らが身を置いた番小屋は、劣悪な環境であることが多く、生活は決して楽なものではなかったでしょう。

明治時代に入り、近代警察制度の確立に向けて動き出すと、番太は意外な形でその歴史に名を刻むことになります。明治7年（1874年）、近代警察組織である警視庁が発足。しかし、当初は人員不足に悩まされ、なんと500名もの巡査の欠員が生じました。そこで、警視庁は、6000人にも及ぶ番太の中から優秀な人材を500名ほど採用するという、異例の措置に出ました。

この決定は、既存の警察官たち、特に武士階級出身者たちの反発を招きました。武士や与力、同心といった身分の人々からすれば、番太出身者が自分たちと同じ巡査となることは、耐え難い屈辱であったのでしょう。彼らの怒りは辞職という形で表れ、警視庁は予想外の事態に直面することになりました。結局、警視庁は、不足分の巡査を各地から新たに2000名も募集せざるを得ない事態に陥ったのです。

当時、警察官の中でも最下級の階級である邏卒（らそつ、現在の巡査に相当）には、薩摩藩など遠方から来た下級武士が多くいました。彼らは言葉や習慣が異なり、粗暴な振る舞いも少なくありませんでした。そのため、民衆からは恐れられながらも、同時に田舎者として軽蔑の対象にもなりました。こうした警察官の実態を反映してか、無能で高慢な役人を皮肉る際に「番太みたいな奴」という言葉が使われたという記録も残されています。

このように、番太は江戸時代の治安維持に貢献した一方、社会的に低い立場に置かれ、過酷な労働を強いられました。明治時代の警察制度改革においても、番太の採用は、新たな問題を引き起こす要因となりました。彼らの存在は、当時の社会構造や人々の意識、そして近代警察制度の確立過程を理解する上で、重要な視点を提供してくれると言えるでしょう。

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