稲村ジェーン

映画『稲村ジェーン』：時代と青春の交錯、そして音楽の力

1990年9月8日公開の映画『稲村ジェーン』は、サザンオールスターズの桑田佳祐が監督・音楽を務め、加勢大周を主演に迎えた青春映画です。舞台は1965年の鎌倉・稲村ヶ崎。東京オリンピックの翌年、変わりゆく社会の中で揺れる若者たちの姿が、鮮やかな映像と印象的な音楽と共に描かれています。

物語の舞台と登場人物

物語は、稲村ヶ崎に戻ってきた主人公ヒロシ（加勢大周）、伊勢佐木町のチンピラ・カッチャン（的場浩司）、ラテンバンドのリーダー・マサシ（金山一彦）ら、個性豊かな若者たちの織りなす青春群像劇です。そこに現れた魅力的な女性・波子（清水美砂）を巡り、奇妙な友情が芽生えていきます。彼らの夏は、サーフィン、音楽、そして恋を通して、時代の変化や自分たちの未来への不安、葛藤が交錯する、儚くも鮮烈な日々となります。

桑田佳祐監督の初監督作品とその背景

桑田佳祐にとって本作は、ミュージシャンとしての活動に加え、新たな挑戦となった初監督作品です。彼はプロデューサーの森重晃氏に「何もない青春を描きたい」と語り、その想いが本作の企画・制作へと繋がりました。

興行的な成功と賛否両論の評価

『稲村ジェーン』は、1990年度の日本映画配給収入年間ランキングで4位にランクインするなど、興行的には大きな成功を収めました。サウンドトラックもミリオンセラーを記録し、楽曲の高い評価は現在も続いています。しかし、映画そのものについては、著名人や評論家から厳しい評価も寄せられました。ビートたけし氏による痛烈な批評は有名ですが、一方で音楽面については高く評価されており、その複雑な評価は、作品が持つ独特な魅力を反映していると言えるでしょう。

永野氏のような、公開から時を経て本作を再評価する声も存在し、その評価は多様性に富んでいます。桑田自身も、完成作品に確固たる自信を持てなかったことを明かしており、その葛藤が、本作の独特の雰囲気を作り上げているのかもしれません。

作品のこだわりと裏側

『稲村ジェーン』は、時代設定は1965年ですが、ファッションや雰囲気など、現代（制作当時）の要素も取り入れられています。スペイン語の歌やハングル文字の看板、ラマの登場など、異国情緒を感じさせるシーンも散りばめられ、桑田独特のセンスが光ります。また、サーフィンを題材としていながら、主演の加勢大周と桑田自身にサーフィン経験がなかったというエピソードも有名です。

制作にあたり、桑田は親交のある山下達郎氏に相談し、脚本家・康珍化氏を紹介してもらっています。挿入歌「忘れられたBIG WAVE」は、山下達郎が音楽監督を務めた『ビッグ・ウェイブ』の影響を受けて制作されたものです。当初は主題歌として予定されていましたが、クランクアップ後に「真夏の果実」に変更され、追加撮影が行われたという経緯も興味深い点です。

30周年を経て

公開から30年以上が経過した現在も、『稲村ジェーン』は、Blu-ray/DVDの発売、ラジオドラマ化、各地での上映会など、様々な形で再評価され続けています。その根強い人気は、時代を超えて共感を呼ぶ、若者たちの等身大の姿と、桑田佳祐の音楽の力によるものと言えるでしょう。ラジオドラマ「稲村ジェーン2021～それぞれの夏～」では、75歳になったヒロシが、過去の夏の記憶を辿る物語が展開され、新たな感動を与えています。

キャスト、スタッフ、そして音楽

本作には、加勢大周、清水美砂、的場浩司、金山一彦ら、個性豊かな俳優陣が出演しています。また、スタッフには、桑田佳祐をはじめ、著名な映画関係者たちが名を連ねています。主題歌「真夏の果実」をはじめとするサザンオールスターズの楽曲は、映画の世界観をさらに豊かに彩っています。音楽面では、小林武史氏も編曲に関わっており、その才能も作品の魅力を引き立てています。

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