終ノ空

終ノ空：自殺、狂気、そして世界の終焉

ケロQが贈る大人向けノベルゲーム『終ノ空』は、一人の少女の自殺という衝撃的な事件を、4人の異なる主人公の視点から多層的に描く、哲学的な深みを持つ作品です。一見、ヴィトゲンシュタインの影響を受けた言語哲学を扱っているように見えますが、実際は認識論的な問題、特に大陸系の哲学的思考に強く影響を受けていることが特徴です。

物語の中心となるのは、高島ざくろの自殺です。不良に襲われた後、謎の生徒たちに「世界を救う存在」と告げられ、彼女は学校の屋上から身を投げます。この事件をきっかけに、学園全体は狂気に染まり始めます。

四つの視点、四つの真実

プレイヤーは、4人の主人公――水上行人、若槻琴美、高島ざくろ、間宮卓司――それぞれを操作し、事件の真相に迫ります。それぞれの視点によって、事件の解釈、登場人物たちの関係性、そして「終ノ空」の意味さえも大きく異なってきます。

水上行人: 物語の主要な主人公。無愛想で一見冷淡な彼ですが、心の奥底には深い優しさと葛藤を抱えています。OVA版では、より明るくお調子者な性格で描かれています。彼の視点では、幼馴染である琴美の誘拐事件や、事件の背後に隠された陰謀が明らかになっていきます。

若槻琴美: 行人の幼馴染で、本作のヒロイン。優秀な成績と運動神経を持ちながら、気さくで親しみやすい性格です。ざくろに好意的に接していた数少ない人物の一人で、彼女にもたらされた悲劇を深く悲しみます。彼女の視点では、ざくろの自殺とその後の学園の異変に対する彼女の葛藤が描かれています。

高島ざくろ: 自殺した少女。内気で引っ込み思案な性格と、美しい容姿ゆえにいじめに遭っていました。しかし、その内面には、複雑な感情と鋭い洞察力が隠されています。OVA版では、明るく屈託のない性格で、琴美の親友として描かれています。

間宮卓司: 女性的な容姿の少年で、ざくろと同様にいじめを受けていました。しかし、彼は巧みな話術で周囲を操り、ざくろの死を世界の終焉と捉え、独自の宗教団体を結成します。彼の視点では、学園における狂気の蔓延と、彼の歪んだ信仰心が浮き彫りになります。

物語は、行人とクラスメイトの音無彩名とのやり取りで幕を閉じます。静かに、しかし深く心に響くエンディングは、プレイヤーに多くの余韻を残します。他の登場人物、例えば剣道部員で琴美の後輩である横山やす子や、担任の清川明日美、そして卓司の妄想から生まれたリルルなども、物語に奥行きを与えています。

『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』との関係

『終ノ空』のシナリオを担当したSCA-自氏は、2010年に『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』を制作しています。この作品は、『終ノ空』と同じ題材を用いており、全体的なストーリーラインも類似しています。『終ノ空』に登場するキャラクターが複数登場し、終盤のルートでは『終ノ空Ⅱ』をプレイできるようになっていますが、続編やリメイクというよりは、全く異なる切り口で物語が展開されます。『終ノ空 remake』は開発中でしたが、『素晴らしき日々 〜不連続存在〜』に吸収される形で企画が消滅し、没CGが2019年に公開されました。2020年には、『素晴らしき日々～不連続存在 10th Anniversary特別仕様版』に『終ノ空』と『終ノ空 remake』が収録されました。


哲学と狂気、そして救済

『終ノ空』は、単なるミステリーやホラーゲームではありません。自殺、狂気、そして救済といった、人間の深層心理に迫るテーマを、哲学的な視点から深く掘り下げています。ドグラ・マグラ、クトゥルー神話、ヴィトゲンシュタイン、ノストラダムスの大予言、天使の王国といった様々な要素が複雑に絡み合い、独特の世界観を作り上げています。

このゲームは、プレイヤーに多くの問いを投げかけます。狂気とは何か？救済とは何か？そして、世界の真実は何か？これらの問いに答えるのは、あなた自身です。

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