草枕

草枕

『草枕』（くさまくら）は、夏目漱石による1906年発表の小説で、熊本県玉名市の小天温泉を舞台に、人間関係や芸術の本質を探る作品です。この物語では、漱石が「非人情の世界」と呼ぶ独特の視点から、日常生活の魅力と苦悩を描写しています。

あらすじ

物語は、日露戦争の時代、30歳の洋画家である主人公が温泉宿に滞在することから始まります。そこで、彼は「若い奥様」とうたわれる那美と出会います。那美は出戻りの女性であり、主人公を魅了する美しい所作を持つ一方で、彼女の存在は主人公に「茫然たる事多時」を感じさせます。彼女から自分の絵を描いてほしいと頼まれるものの、主人公は彼女の中に「足りないところがある」と感じ、画家としてその思いを描くことができません。

ある日、主人公は那美とともに彼女の従兄弟の出発を見送るために駅に向かいます。その際、那美の元夫である「野武士」のような姿をした男と偶然出会い、窓越しに視線を交わす瞬間が描かれます。この瞬間、主人公は那美の顔に浮かぶ「憐れ」を捉え、それが自身の作品に必要な要素であることを感じ取ります。この出来事を通じて、漱石は戦争の影響やその背後にある文化に迫ります。

芸術と文化の論考

『草枕』における芸術論は、東洋と西洋の文化の対比が重要なテーマです。漱石は西洋の詩が「人事」に根ざしているため、同情や愛、正義といったテーマに縛られているのに対し、東洋の詩は超然とした境地に立つことができると論じています。彼は、読者に対して、現代詩人たちが西洋文化に依存する中で、古来の東洋の詩的な心を忘れてしまっていることを批判します。

歴史的背景

漱石はこの作品を執筆する際、熊本で英語教師として働いており、自らの経験を基に物語を構築しました。特に小天温泉に訪れた際の感覚や出会いが反映されています。また、作品は1906年に『新小説』に初めて発表され、以降も多くの読者に親しまれてきました。

まとめ

『草枕』は、非人情をテーマにした物語であると同時に、芸術や文化についての深い考察を含んでいます。主人公の心の葛藤や彼が出会う人々を通じて、漱石は人間の本質や現代社会の課題を問い直します。これは漱石の作品の中でも特に評価される部類に属し、彼の作品を通して日本文化の変遷を理解する手助けにもなっています。

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