小天温泉

小天温泉：夏目漱石『草枕』の舞台

小天温泉は、熊本県玉名市天水町小天に位置する温泉地です。この地は、文豪・夏目漱石の小説『草枕』の舞台となった「那古井温泉」のモデルとして広く知られています。明治時代から多くの人々を魅了してきた歴史と文化が息づく温泉地を詳しくご紹介します。

歴史と文化

1896年（明治29年）から熊本市の第五高等学校（現在の熊本大学）で英語教師として勤務していた夏目漱石は、翌年の暮れに、当時熊本市街から最も近い温泉地であった小天で数日間を過ごしました。この時の体験が、後に『草枕』を執筆するきっかけになったと言われています。漱石は、ロンドン留学中に友人へ宛てた手紙の中で「日本に帰ったら、また日本流の旅行をしたい。小天への旅を思い出すよ」と綴っており、小天温泉への特別な思い入れが伺えます。

また、小天は自由民権運動家であり、初代衆議院議員を務めた前田案山子の故郷でもあります。案山子を慕って、中江兆民などの思想家や活動家たちがこの地を訪れました。さらに、案山子の娘が孫文を支援した宮崎滔天に嫁いだ縁から、多くの中国人民主活動家も逗留し、日本における中国革命の拠点の一つとなりました。

かつては島原湾に面していましたが、明治期以降の海岸干拓によって、海岸線から離れた場所に位置しています。

泉質

泉質は、単純弱アルカリ泉で、肌に優しいのが特徴です。

温泉施設

明治時代には5～6軒の温泉宿がありましたが、現在営業しているのは2軒です。

1. 那古井館（旧称：田尻温泉）：明治元年に創業した老舗旅館です。戦後、小説『草枕』にちなんで屋号を「那古井」に変更しました。
2. 草枕温泉てんすい：グラウンドゴルフ場やバーベキュー施設、ロッジ型の宿泊施設「草枕山荘」を備えた総合観光施設です。

前田家別邸

前田案山子の別邸として建てられ、温泉宿としても営業していました。1897年（明治30年）には夏目漱石が逗留し、その後も複数回訪れたとされています。現在は温泉としての営業は行っていませんが、一部を除いて一般公開されています。

小説『草枕』に登場する温泉旅館の主「志保田家」は前田家がモデルであり、ヒロインの那美は案山子の娘である卓（つな）が、那美の父親である隠居は案山子自身がモデルです。卓の妹である槌は、宮崎滔天の妻であり、柳原白蓮との駆け落ち事件で世間を騒がせた宮崎龍介の母にあたります。

その他の施設

草枕交流館：小説『草枕』の世界観と小天地区の魅力を紹介する交流施設です。
花の館：花に関する展示やイベントを行う施設です。
市民農園：地域住民が利用できる農園です。

アクセス

JR：JR九州鹿児島本線玉名駅から九州産交バス伊倉経由河内温泉センター行きに乗車し、「小天温泉」で下車。
バス：熊本桜町バスターミナルから九州産交バス小天温泉行きまたは天水支所行きに乗車し、「小天温泉」で下車。
車：九州自動車道菊水インターチェンジから約18km。

外部リンク

* 漱石・草枕の里

小天温泉は、歴史と文化が息づく魅力的な温泉地です。ぜひ一度訪れて、漱石が愛した風景と温泉をお楽しみください。

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