蟷螂拳

蟷螂拳（とうろうけん）

蟷螂拳は、中国武術の中でも独特なスタイルを持つ門派の一つです。螳螂拳とも表記されますが、どちらも間違いではありません。中国語圏では螳螂拳と表記されることが一般的です。英語では「Mantis Boxing」と呼ばれることもあります。

蟷螂拳には、大きく分けて北派と南派が存在します。北派は、中国の山東省に起源を持つ北派少林拳の流れを汲み、道教の影響を受けています。一方、南派は、広東省や福建省など中国南方地域を中心に伝承されている南派少林拳の流れを汲み、周家蟷螂拳や朱家蟷螂拳などが存在します。ここでは、両者の混同を避けるため、日本でもよく知られており、世界的に普及している北派蟷螂拳について解説します。

北派蟷螂拳

北派蟷螂拳は、北派少林拳の一種として知られ、カマキリの象形を模した独特の手形（蟷螂手）を用いるのが特徴です。猴拳や秘宗拳など、北方の様々な門派に由来する技法群や豊富な套路を持ち、中国北派武術の総合拳とも言えます。伝説によれば、蟷螂拳の創始者である王朗は、中国各地を巡り、武術の名家十八門派を学んだとされています。

起源

蟷螂拳の伝承では、清代初期に山東省出身の王朗という人物が創始したとされています。また、古代の兵法書「六韜」に「蟷螂武士」の名があることから、蟷螂拳のルーツと関連があるとする説も存在します。

創始伝説によれば、王朗は蟷螂拳を創始する以前、多くの門派の拳法を学び、各地の武術家を打ち破りました。しかし、嵩山少林寺で出会った僧侶にはどうしても勝てず、悩んでいたところ、カマキリが蝉を捕らえる瞬間を目撃し、その動きにインスピレーションを得て蟷螂拳を編み出したとされています。その後、再び少林寺を訪れた王朗は、以前打ち負かされた僧侶にも勝利しました。そして、故郷の山東省に戻り、嶗山の道士に蟷螂拳を伝えたと伝えられています。

ただし、王朗という人物の実在性や、この創始伝説が史実であるかどうかについては、諸説あり、明確には解明されていません。

また、古くは単に少林拳の一種であった蟷螂拳が、技法上の選択から蟷螂手という手形を採用したことにより、蟷螂の名が後から付けられたという説も存在します。

門派

王朗の没後、蟷螂拳は、動作が俊敏剛猛で技法が細密な硬蟷螂拳（七星蟷螂拳、梅花蟷螂拳、秘門蟷螂拳）と、内家拳のような緩やかな套路を練る軟蟷螂拳（六合蟷螂拳）に分派したとされています。その後も、八歩蟷螂拳、通背蟷螂拳、太極蟷螂拳など、数多くの分派が生まれ、中国全土に広まりました。

特徴

蟷螂拳は、近接から中間距離での素早い攻防を得意とする門派です。より戦法上の自由度を高めるため、長距離での戦いを意識した長拳を取り入れた分派も存在します。

蟷螂拳の代名詞とも言える「蟷螂捕蝉式」は、カマキリがセミを捕らえる形を模したもので、構えとして知られていますが、実際には実用的な技の一種です。蟷螂手で相手の腕を巻き込み、体勢を崩すなどの用法があります。

套路としては、崩歩拳、虎燕拳、十八曳拳、打剛拳、梅花拳などがあり、全ての派の型を合わせると50以上もの数になります。また、套路以外にも、十路破法という実戦技法群や、先行18手などの技法招式が伝承されています。

メディアでの露出

蟷螂拳は、映画や漫画など、様々なメディアにも登場しています。

子供向けテレビ番組『ひらけ!ポンキッキ』で、松田隆智が蟷螂拳の套路を披露しました。
映画『刑事物語』では、武田鉄矢が蟷螂拳を披露しています。
漫画『拳児』には、蟷螂拳の名人である蘇崑崙が登場します。
対戦格闘ゲーム『バーチャファイターシリーズ』では、リオン・ラファールが蟷螂拳を使用します。

これらの作品を通じて、蟷螂拳は広く知られるようになりました。

参考文献

松田隆智著 『図説中国武術史』 壮神社
青木嘉教 『中国拳法八大門派戦闘理論』 愛隆堂
* 根本一己 『螳螂拳大要―陰陽兼備の総合拳法』 福昌堂

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