襟足

襟足（えりあし、衿足、領脚）とは、耳の後方から首筋にかけての領域に生える髪の毛の総称です。頭と首の境目に位置しており、英語ではネープ（nape）とも呼ばれます。歴史的には「ゑりあし」と表記されることもありました。

この「襟足」という言葉の成り立ちには、興味深い説があります。髪を頭部の高い位置で結い上げた際、首の後方に沿って左右に分かれて垂れ下がる生え際のラインが、まるで地面に立つ脚のように見えたことから、そのように呼ばれるようになったと伝えられています。

襟足の生え際の形状は人によって様々で、個性的な形が見られます。一般的に、その特徴によっていくつかのタイプに分類されることがあります。代表的なものとしては、中央部がくぼんで両側が下がる「W型」、W型に近いが中央のへこみが浅いかやや突き出ている「WM型」、全体的に丸みを帯びた弧を描く「U型」、そしてほぼ直線的な生え際である「ぱっつん型（直線型）」などが挙げられます。

日本の伝統的な美意識において、うなじ（襟足を含む首の後ろの部分）は、顔や手と同様に、衣服によって覆われずに露出する数少ない身体の部位であり、特別な魅力を帯びていました。特に男性は、女性のうなじに強い関心や美しさを感じることが多かったとされています。この文化的背景から、襟足の形状に対する好みが生まれました。古くは、左右に長く伸びて足のように見える生え際が、色気があり美しいとして特に好まれました。一方、中央部分が丸く弧を描く「U型」の生え際は「坊主襟（ぼうずえり）」と呼ばれ、あまり好ましい形とは見なされない傾向がありました。江戸時代以降、こうした「坊主襟」を隠し、好ましい形に見せたり、襟足をより印象的に見せたりするために、襟足の中央部分の髪を剃り、その上から白粉を塗って肌色を白くし、襟足を際立たせる化粧法が広く普及しました。

現代では、うなじ全体を指す際に「ネープ（nape）」という英語表現を用いることも少なくありません。また、現代のヘアスタイルにおいて、襟足の処理は多様化しています。特に男性のヘアスタイルでは、「ネープレス」と呼ばれるスタイルが、若い世代を中心に支持を集めています。これは、襟足の髪を非常に短く刈り上げる、または剃り上げるスタイルで、後頭部の生えグセによる髪の浮き上がりを防ぎ、清潔感や爽快感を与えると同時に、後頭部の丸みを強調し、頭全体のシルエットを立体的に見せる効果があるとされています。

ちなみに、襟足の生え際からおよそ2～3センチメートル程度の長さに髪をカットするスタイルは、一般的にショートカットに分類されます。このように、襟足は単なる髪の生え際というだけでなく、古くからの文化的な意味合いや、現代の多様なヘアスタイルにおいて重要な要素として捉えられています。

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