野中信吾

野中 信吾（のなか しんご）

1983年9月24日、佐賀県神埼市に生まれた野中信吾氏は、右投両打（後に右打ち、再びスイッチヒッターへ転向）の元プロ野球選手です。内野手、外野手として、日本ハムファイターズ、横浜ベイスターズ（現：横浜DeNAベイスターズ）、オリックス・バファローズでプレーしました。

プロ入り前の軌跡

佐賀県立神埼高等学校時代には、遊撃手として活躍。2001年には、第73回選抜高等学校野球大会、第83回全国高等学校野球選手権大会と春夏連続で甲子園の舞台に立ちました。特に遊撃手としての高い守備能力、天性のセンス、優れた脚力に加え、高校通算19本塁打という長打力も兼ね備えており、プロ野球スカウトから熱い視線を浴びました。同年のドラフト会議では、日本ハムファイターズから5巡目で指名され、プロへの道を歩み始めます。この際、横浜ベイスターズも野中氏の指名を予定していましたが、日本ハムに先行されたことで、当時の森祇晶監督が「ドラフト失敗」と嘆いたというエピソードも残されています。

日本ハム時代と横浜への移籍

2002年、プロ入り1年目にしてシーズン終盤に一軍に昇格。9月23日の千葉ロッテマリーンズ戦（東京ドーム）で代走としてプロ初出場（背番号61）を果たします。そして10月5日の大阪近鉄バファローズ戦（東京ドーム）では、代打で登場しプロ初安打を記録しました。2003年は残念ながら一軍での出場機会はありませんでしたが、同年オフに大きな転機が訪れます。横山道哉投手との交換トレードにより、横浜ベイスターズへの移籍が決定しました。

このトレードは、かつて横浜のスカウトとして野中氏を熱心に追いかけていた岩井隆之氏が、2004年から二軍監督に就任するにあたり、彼の獲得を強く希望した結果でした。岩井氏の働きかけは、野中氏の打撃スタイルにも影響を与え、一時的に左打ちへの転向を経験。その後、一軍ヘッド兼打撃コーチの松原誠氏の進言により、スイッチヒッターへと転身します。

横浜時代：盗塁王と飛躍の年

横浜移籍後、野中氏は背番号を53に変更します。2004年には、イースタン・リーグで32盗塁をマークし、初の盗塁王を獲得。一軍でも代走として7試合に出場し、3盗塁を記録しました。2005年には代走要員として一軍に定着し、30試合に出場。4月29日の対中日ドラゴンズ戦で移籍後初打席に立ち、右中間へのタイムリー三塁打を放つ活躍を見せました。2006年もイースタン・リーグで26盗塁を記録し、二度目の盗塁王に輝きますが、一軍では代走での2試合出場に留まりました。

転機となったのは2007年です。大矢明彦監督の就任に伴い、交流戦途中から再び右打ちに戻しました。このシーズンは主に代走や守備固めとして出場していましたが、シーズン後半にはスタメンでの起用が大幅に増加。自己最多となる79試合に出場し、チームトップの15盗塁を記録します。打撃面でも成長を見せ、7月25日の読売ジャイアンツ戦（東京ドーム）では林昌範投手からプロ初本塁打となる左越え2ランを放ちました。7月28日には3安打1盗塁2得点の活躍で、プロ入り初のヒーローインタビューも経験。出塁率も3割を超えるなど、打撃でも存在感を示しました。守備では二塁手、遊撃手として安定したプレーを見せ、さらに出場機会を増やすため外野手としても1試合に出場するなど、複数ポジションをこなす器用さも発揮しました。

しかし、2008年以降は再び出場機会が減少し、打撃成績も伸び悩みます。2009年はわずか7試合の出場に終わり、盗塁はゼロで失敗が2回。2010年も36試合に出場し7盗塁を記録しましたが、打席に立つ機会は少なく、2年連続で無安打に終わりました。同年11月11日、一輝選手・桑原謙太朗投手との交換トレードにより、オリックス・バファローズへの移籍が決まります。オリックスでも背番号は横浜時代と同じ53番となりました。

オリックス時代、そして引退

オリックス移籍初年度の2011年、岡田彰布監督の進言により、再びスイッチヒッターに転向。代走要員として開幕一軍入りを果たします。しかし、4月16日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦で、同点の場面で代走として出場した際、打球判断を誤り三塁で止まった結果、チームは同点に追いつけずに敗戦。これが響いたか、5月22日に登録抹消されて以降は一軍に戻ることなくシーズンを終えました。出場は12試合に留まり、打撃は3打席で無安打と、3年連続無安打となりました。

2012年は外野手として登録され、前年同様に代走要員として開幕一軍入りを果たします。シーズン途中に主力外野手の坂口智隆選手が離脱したことから、出場機会が巡ってきました。5月19日の東京ヤクルトスワローズ戦で、横浜時代の2010年4月23日以来となるスタメン出場を果たすと、第2打席で内野安打を放ち、2008年9月5日以来となる1352日ぶりの安打を記録します。さらに第4打席でも安打を放ち、2007年9月2日以来1721日ぶりのマルチ安打をマーク。この活躍がその後の逆転勝利につながり、チームの6連敗ストップの大きな契機となりました。これを機に1、2番打者としてスタメン出場が増加。5月25日の広島東洋カープ戦では自己最多となる1試合3盗塁を達成し、5月27日のDeNA戦では5年ぶりとなる三塁打を放つなど、打撃面でも奮闘しました。この年は最終的に74試合に出場し、チーム最多の12盗塁を記録するなど、随所で存在感を示しました。

しかし、2013年は坂口選手の復帰や糸井嘉男選手の加入などにより、外野の層が厚くなり、出場機会は再び激減。わずか6試合の出場に留まりました。同年10月7日、球団から戦力外通告を受け、現役を引退しました。

選手としての特徴と引退後

野中氏は、プロ入り前から評価されていた俊足と高い守備力が最大の武器でした。内野、外野の複数ポジションを高いレベルでこなす守備範囲の広さと堅実さ、そしてプロ野球界でもトップクラスと評された脚力を活かし、主に試合の終盤で代走や守備固めとして起用される「スペシャリスト」として活躍しました。打撃には波がありましたが、学生時代からバントは得意としていました。内野守備では、かつて名手として知られた仁志敏久氏を参考にしており、横浜時代には実際に同僚として二遊間を組む機会もありました。

現役引退後は、トレーナーの養成専門学校で学びながら、仁志ベースボールアカデミーの講師を務めるなど指導者としての道を歩み始めました。2016年からは、地元である佐賀県神埼市の教育委員会で学校体育補助員に就任し、子供たちの体力向上やスポーツ振興に貢献しています。

野中信吾氏のプロ野球人生は、怪我や打撃の課題に苦しみながらも、その類まれなる俊足と高い守備力で各球団に貢献した12年間でした。特にイースタン・リーグでの二度の盗塁王獲得や、2007年、2012年に見せた一軍での奮闘は、ファンに強い印象を残しました。引退後も、野球やスポーツを通じて社会に貢献する活動を続けています。

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