闇の土鬼

横山光輝による漫画『闇の土鬼』（やみのどき）は、『週刊少年マガジン』にて1973年4月から1974年3月にかけて連載された時代劇作品です。

概要

本作は、類まれなる裏の武芸を体得した青年・土鬼が、育ての父の仇である暗殺集団「血風党」を追う壮絶な戦いを描きます。物語の舞台は徳川幕府の時代。血風党を巡る因縁に、宮本武蔵や柳生十兵衛といった実在の著名な武芸者たち、さらには徳川家光の弟である徳川忠長とその家臣団による権力争いが複雑に絡み合います。それぞれの登場人物の思惑が交錯する中で、息詰まる展開が繰り広げられていきます。血風党が用いる「裏の武芸」は、歴史の影で暗躍する暗殺集団の秘術としての側面が強調されており、従来の忍者活劇における「忍術合戦」とは趣を異にする独自のスタイルで描かれている点が特徴です。作者の横山光輝自身が、かつて手掛けた『暗殺道場』を着想の源として、本作を再構築したと語っています。

あらすじ

物語は、徳川家康によって極秘裏に組織された恐るべき暗殺部隊「血風党」の存在から始まります。彼らは歴史の表舞台に立つことなく、暗殺や撹乱といった密命を遂行することで徳川の世を築き上げた影の功労者でした。しかし、戦国の世が終わり、泰平の世となった三代将軍・家光の治世においては活躍の場を失い、やがて自らの快楽のためだけに殺人を繰り返す凶悪な集団へと変貌していました。この血風党の非道さに嫌気がさし、組織を抜け出したのが大谷主水です。旅の途中、主水は貧しさゆえに間引かれようとしていた生まれたばかりの赤子を救い出します。この赤子は、一晩生き埋めにされ、鍬で右目を傷つけられても生き延びるという、常人離れした生命力を持っていました。主水はこの赤子を「土鬼」と名付け、我が子として愛情深く育て上げます。

十数年の歳月が流れ、たくましく成長した土鬼は、狂犬に襲われていた子供を助けるため、日頃主水から密かに鍛えられていた裏の武芸を思わず使ってしまいます。この出来事がきっかけとなり、大谷主水の潜伏先が血風党の追っ手に知られてしまいます。主水は土鬼を逃がすため、単身で果敢に立ち向かいますが、壮絶な戦いの末に追っ手の最後の一人と相討ちになり、命を落としてしまいます。育ての父の突然の死に打ちひしがれ、土鬼は主水の恩に報いるため、そして血風党の非道を止めるため、血風党の頭目である無明斎を倒すことを心に誓い、復讐の旅に出ます。

幾多の困難を乗り越え、ついに血風党との戦いの機会を掴み、無明斎と対峙する土鬼でしたが、突如として襲われる謎の持病（片腕の不定期な麻痺）により絶体絶命の窮地に陥ります。しかし、土鬼を殺そうとした寸前、無明斎は手を止めます。直前に届いた急使により、幕府が無用となった血風党を柳生一門に始末させる命令を下したことを知ったからです。血風党の滅びが避けられない運命であることを悟った無明斎は、自らが編み出した裏の武芸を土鬼に伝承させるという驚くべき考えに至ります。無明斎は土鬼を殺す代わりに許し、自分たちが立てこもる血風城へ後から来るようにと伝えます。血風城がそびえる山は、険しい道に加え、一族最強の四天王が守りを固めることにより、事実上の不落の要塞となっていました。四天王を打ち破り、城にたどり着くことができれば、血風党の秘術を土鬼に伝えることができる。血風党は滅びても、無明斎が心血を注いで完成させた武芸そのものは、土鬼の手によって後世に残るだろう――。無明斎との約束を果たすべく、土鬼は血風城へと向かいます。時を同じくして、柳生十兵衛率いる柳生一門は、血風党討伐の幕府の命を受け、無明斎の首を狙って動き出していました。血風党は、自らの存亡をかけて柳生を迎え撃ちます。そして無明斎は土鬼を待ちます。それぞれの思惑と因縁を胸に、最後の決戦が始まろうとしていたのです。

登場人物

本作には個性豊かな登場人物たちが登場します。

主人公の土鬼は、凄まじい生命力を持って生まれた農民の子で、育ての親である大谷主水から血風党の裏武芸を受け継ぎました。右目は幼少期の傷により失明しており、さらに時折左腕が麻痺するという持病を抱えています。七節棍や、指先で石を弾丸のように飛ばす「霞のつぶて」を主な武器とします。物語終盤では血風党の四天王を全て倒し、無明斎から裏武芸の真髄を伝授され、育ての父の仇であり師ともなった無明斎の眼前で柳生十兵衛との決闘に勝利します。

土鬼の育ての親である大谷主水は、血風党から脱走した人物。老人に変装していましたが、土鬼が裏武芸を使ったことで正体が露見し、追っ手との戦いを余儀なくされ、土鬼を逃がすために命を落とします。

血風党の頭目である無明斎は、裏武芸を完成させた人物。物語前半では土鬼を追う一方で、血風党存続のため徳川忠長を利用するなど画策しますが、忠長の失脚により組織の滅亡を悟り、自らの技を後世に残すべく土鬼に伝承します。

幕府の命を受け血風党を追う柳生十兵衛は、隻眼の剣豪で柳生新陰流の達人。初対面の土鬼の中に武芸者としての非凡な才能を見抜き、高く評価します。

天下無双の剣豪として知られる宮本武蔵も登場します。気まぐれから少年時代の土鬼と対決し追い詰めますが、土鬼の中に自身と同じ性質を見出し、それ以上の深入りを止めます。

その他、家光の弟で権力争いを繰り広げる徳川忠長、家光の側近である老中松平伊豆守、土鬼を助ける伊賀の隠密霧兵衛、そして血風党の個性的な使い手である月鬼、火鬼、水鬼、最強の四天王である岸部左門、小源太、鉄牛、才蔵などが物語を彩ります。

特異な武器

『闇の土鬼』の特徴の一つとして、奇妙で暗殺に適した武器の数々が登場します。主人公・土鬼の使う変幻自在の七節棍に加え、血風党は刀剣も用いますが、本来暗殺集団であった彼らは、霞のつぶて（指弾）、仕込み傘（傘に仕込まれた針）、輪（円形の刃）、梅吒（毒爪付き金具）、飛抓（鉤爪）、爪（手甲鉤）、銀線・銀網（細い鉄線や網）、双條鞭・多條鞭（鞭）など、様々な暗殺特化型の武器を駆使します。これらの武器には実在するものも含まれますが、多くは横山光輝による独創的なアイデアから生まれたものと見られています。

刊行情報

本作は、講談社漫画文庫版や小学館クリエイティブによる完全版などが刊行されています。

関連作品

アニメ『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』には、「直系の怒鬼」というキャラクターが登場し、血風党を配下に持つ設定がなされています。

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