阿仏尼

阿仏尼について

阿仏尼（あぶつに、阿佛尼）は、鎌倉時代中期に活躍した女流歌人です。彼女の誕生日については諸説あり、貞応元年（1222年）から弘安6年4月8日（1283年5月6日）にかけて生存していたとされています。女房名は安嘉門院四条（あんかもんいんのしじょう）または右衛門佐（うえもんのすけ）です。彼女の実父母は不明ですが、奥山度繁（おくやまのりしげ）の養女として育てられたとされています。ただし、実の娘であるという見解も存在します。

生い立ちと人生の転機

阿仏尼は、桓武平氏大掾氏流の平維茂の末裔である奥山度繁の家系に生まれました。若い頃には安嘉門院に仕官し、そこで出仕中に初恋の失恋を経験し、悲しみから出家を決意して尼となります。しかし、尼としての生活を送りながらも、世俗との関わりを断つことはありませんでした。彼女は30歳頃、藤原為家の側室となり、後に冷泉為相などの子どもを授かります。

鎌倉への旅とその後

為家の死後、播磨国細川荘（現・兵庫県三木市）の相続を巡る争いが生じました。特に正妻の子である二条為氏との間で対立があり、1279年（弘安2年）にはその問題を解決するために鎌倉に向かいました。その際の彼女の紀行と、鎌倉滞在の記録が『十六夜日記』として著されています。訴訟の結果が明らかになる前に彼女が鎌倉で亡くなったという説もあれば、京都に戻った後に亡くなったという説もあります。

歌壇における活動

阿仏尼は、和歌界においても活動を続け、特に「弘安百首」などに参加したり、関東の十社に勝訴を祈願して奉納した歌集「安嘉門院四条五百首」「安嘉門院四条百首」などが残っています。また、歌論書『夜の鶴』を執筆し、若い頃に書いた『うたたね』では、初恋の失恋の出来事を記録しています。彼女の作品は、『続古今和歌集』や様々な勅撰和歌集に48首が収められており、彼女の短歌は高く評価されています。ただし、彼女の孫である冷泉為秀が関与した『風雅和歌集』や阿仏尼と親しい京極為兼が編集した『玉葉和歌集』においては、彼女の作品の収録数が多い一方、冷泉家と対立する二条家が主導した場合には少なく、当時の歌壇における政治的な対立状況が反映されていると考えられています。

阿仏尼の墓と主な作品

現在、鎌倉市扇ガ谷には阿仏尼の墓が伝わっています。また、京都市南区の大通寺にも「阿仏塚」と呼ばれる彼女の墓所があります。彼女の主な作品としては『十六夜日記』『うたたね』『夜の鶴』『乳母のふみ』などがあり、既存の文学や歌壇に大きな影響を与えました。

彼女の生き方や歌の世界は、当時の女性の立場や心情を反映しており、今なお多くの人々に感銘を与えています。

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