骨伝導
骨伝導(こつでんどう)とは、生体内で
音を伝える能力やその
技術を指します。具体的には、
音の
振動が骨を通じて直接
内耳に到達し、
聴覚神経に信号を送る仕組みです。この現象は日常生活でも起こっており、自分の
声を聞く際には
空気を通して伝わる
音と骨を通る
音が合わさっています。これは、
録音した自分の
声を聞いた時に感じる違和感の原因です。
録音では
空気伝導のみが使用されるため、通常の聞こえ方とは異なります。
骨伝導の仕組み
通常、
音を感じるプロセスは、
空気中の
音波が耳の鼓膜を
振動させ、
聴覚神経に信号を送るものです(これを気導
音と呼びます)。しかし、骨伝導では
音の
振動が直接骨を伝わり、
内耳に到達します(骨導
音)。この現象は、意図せずとも常に行われています。
実際に骨伝導を利用して
音を感じる生物も存在します。例えば
クジラは
水中で生活しており、
聴覚器官が全て体内にあるため、
音の伝達に体の骨を利用しています。下顎の骨は
水中の
振動を感知し、そこから
音が
内耳に伝わります。
発見と歴史
骨伝導に関する初期の研究は16世紀に
アンドレアス・ヴェサリウスやガブリエレ・ファロッピオなどによって行われました。特にジェロラモ・カルダーノは、
音の伝達方法について著書の中で解説しています。その後、イタリアの医師ヒエロニムス・カピバッチが
難聴患者に対する骨伝導の臨床研究を行い、歴史的な一歩を踏み出しました。
17世紀になると、フランスの医師ジャン・イタールやイギリスのジョン・ブルワーがそれぞれ
聴覚障害への骨伝導の利用を模索しました。18世紀に入ると、作曲家ベートーヴェンは自身の
難聴を克服するためにこの
技術を活用し、指揮棒を利用して
音楽を感じ取ったとされています。また、19世紀にはアメリカの発明家リチャード・ローズが「オーディフォン」と呼ばれる補聴器を発明しました。
20世紀にはスウェーデンの企業が骨導式補聴器を開発し、実用化されました。このように骨伝導
技術は、歴史を通じて多くの発展を遂げてきました。
骨伝導の応用
現在、骨伝導は様々な分野で利用されています。一例として、外耳や
中耳に障害のある人に向けた補聴器があります。このタイプの補聴器は、外部の
音に影響されることなく
音を直接
内耳に伝えるため、従来の補聴器とは異なり耳を開放に保ちながら利用することが可能です。また、消防士や
兵士などの職業では、その特性から通信機器として使用されています。骨伝導は長時間の使用による疲労を軽減するため、快適な
音響体験を提供します。
日本においては、2002年に
三洋電機が「骨伝導電話機」を発売し、2006年以降も様々な骨伝導ヘッドホンが市場に登場しました。特に、スポーツや通勤時などのシーンでの利用が増えています。その後、リモートワークの普及とともにビジネスシーンでも人気を集めています。最近では、骨伝導
技術を取り入れた多様な製品が登場し、特に
超音波についての研究も行われています。これにより、通常は知覚できないはずの
超音波が骨伝導を通じて人間の
聴覚によって認識される可能性が示唆されています。
結論
骨伝導は、
聴覚に関する理解を深める重要な
技術であり、様々な応用が進められています。今後、さらにその可能性が広がることが期待されます。