高橋正

高橋 正（たかはし ただし）

日本の国際政治学者。1933年に東京で生まれ、2015年に逝去した。

経歴

1956年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京新聞社に入社。外報部員としてキャリアをスタートさせた。その後、企業併合により中日新聞社に移り、ジャーナリストとして約30年間にわたり国際情勢の取材に深く携わった。海外特派員としての経験も豊富で、北米移動特派員を経て、1971年から1974年までモスクワ支局長を務め、冷戦下のソビエト連邦の内部事情を間近に取材した。モスクワ帰任後は外報部次長を務めるなど、国際報道の要職を歴任した。

1985年、長年勤めた新聞社を退社し、研究者・教育者としての道に進む。千葉商科大学商経学部の助教授として着任し、1987年には同大学の教授に昇任した。大学では国際政治学を専門とし、ジャーナリスト時代に培った豊富な現場経験に基づいた教育・研究を行った。また、一時期、防衛大学校の非常勤講師も務めている。2004年に千葉商科大学を定年退職するまで、約20年間にわたり教鞭をとった。教育活動の傍ら、海外語学研修学生の引率や、経済研究所の共同研究として中国、台湾、香港など東アジアへの現地調査も複数回実施した。社会活動としては、「新しい歴史教科書をつくる会」の運動に賛同し、会員としても名を連ねた。

研究・社会活動

専門は国際政治、特にジャーナリスト時代から長く関わったソ連・東欧（後のロシア・東欧）、そして中国を中心としたアジア情勢に詳しかった。学会活動にも積極的で、ソ連・東欧学会（後にロシア・東欧学会に改称）では幹事や理事、会計監事などを歴任し、学会の運営や大会での討論者としても貢献した。また、日ソ円卓会議や中国三研究会、アジア太平洋交流学会などの国際会議や研究交流にも招請され、参加した。

企業や自治体、研究会など、国内外の様々な場で講演活動も精力的に行った。講演テーマは多岐にわたり、「中ソ和解の内幕」「ポスト・ヤルタのゆくえ」「最新ソ連事情」「東北アジア情勢」「華南経済圏」「極東ロシアの将来」「世紀末世界の展望」など、時々の国際情勢に関する深い分析や予測を提供した。海外調査も継続的に行い、ロシア、中国、北朝鮮などを訪問している。

著作と翻訳

高橋正氏は、自身の研究成果やジャーナリストとしての経験を基に、多数の著書を執筆した。主なものに、モスクワ支局長時代の経験を妻との共著で綴った『ソビエト・ライフ 夫婦で見たソ連』をはじめ、『中国のなかのソ連』、『歴史の始まり 世界政治の生きる道』、『世界現代史入門』、『21世紀の国際政治』などがある。これらの著作を通じて、国際政治や現代史に関する自身の見解を発信した。

さらに、翻訳家としても非常に多くの業績を残している。ソ連・東欧、中国関連を中心に、歴史、政治、人物評伝、ノンフィクションなど、幅広い分野の書籍を日本語に訳出した。特に、レーニン、毛沢東、チェ・ゲバラ、マーチン・ルーサー・キング、アンドレイ・サハロフといった歴史上の重要人物の評伝や、ロシア革命期のロマノフ家処刑、スターリン時代の軍人粛清、冷戦期の亡命事件（ミグ25脱出）など、歴史的な出来事に関する詳細な記録の翻訳は多岐にわたる。エドガー・スノーによる中国革命の写真集や、西太后に関する評伝、冷戦期の国際関係に関するジョージ・F・ケナンなどの著作も翻訳しており、その翻訳活動は、日本の読者が世界の近現代史や国際情勢を理解する上で重要な役割を果たした。

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