鳥人大系

鳥人大系：人類滅亡後の世界と鳥人の栄枯盛衰

手塚治虫による漫画作品『鳥人大系』は、1971年から1975年にかけて『S-Fマガジン』で連載されました。単なる短編集の枠を超え、壮大な物語が展開するこの作品は、SF、サスペンス、ホラーの要素を巧みに融合させ、作者のダークな一面を反映した、大人向けの重厚な作品となっています。『人間昆虫記』や『MW』など、同時期に発表された他の大人向け作品と同様に、社会への鋭い風刺と皮肉が随所に散りばめられています。

物語は、ある民家の火災という、一見普通の出来事から始まります。しかし、この火災は鳥によって引き起こされたものでした。世界中で鳥類が高度な知能を獲得し、人類の地位を脅かし始めるのです。やがて、鳥類は人類を超える知性を持つ「鳥人」へと進化し、人類を家畜として支配下に置くようになります。かつて万物の霊長であった人類は、鳥人の文明の下で徐々に数を減らし、ついにはその姿を消していきます。

しかし、高度な文明を築き上げた鳥人たちは、皮肉にも人類と同様に、迷信や偏見、物欲に囚われていきます。羽の色や模様の違いを理由に互いを差別し、争いを繰り返し、環境破壊を引き起こすなど、人類が辿った道を踏襲するのです。そして、やがて鳥人たちは滅亡への道を歩み始めることになります。

『鳥人大系』は、このような鳥人たちの興亡を背景に、それぞれの時代を描いた連作短編集として構成されています。各章は独立した物語でありながら、全体を通して一つの大きな物語が展開していく巧みな構成が魅力です。

主要な章

作品は、以下の章で構成されています。各章は、鳥人の社会や文化、歴史の一断面を切り取ったような、独立した物語として楽しむことができますが、全体を通して鳥人の文明の興亡という大きなテーマが貫かれています。

第一章「ウロロンカ・ドメスティカ・イグニス」
第二章「ラルス・フスクス・イグニス」
第三章「パイロマニアック・マグピー」
第四章「むかしむかし……めでたしめでたし」
第五章「オーベロンと私」
第六章「トゥルドス・メルラ・サピエンス（ブラック・バード）」
第七章「ローデシアにて」
第八章「スポークスマン」
第九章「ドゥブルゥド査定委員会への要請」
第十章「うずらが丘」
第十一章「クロパティア・ピティアルム」
第十二章「ポロロ伝」
第十三章「ミュータント」
第十四章「ファルコ・チンヌンクルス・モルツス」
第十五章「赤嘴党」
第十六章「カモメのジョンガラサン」
第十七章「ブルー・ヒューマン」
第十八章「ラップとウィルダのバラード」
第十九章「ドゥブルゥドへの査定委員会懲罰動議」

作品のテーマ

『鳥人大系』は、単なるSF作品としてだけでなく、人類の文明や社会構造に対する深い考察を促す作品です。鳥人たちの歴史を通して、人類自身の愚かさや矛盾、そして未来への警鐘が示唆されています。高度な知性と文明を築き上げた鳥人たちが、結局は内紛や環境破壊によって滅亡の道をたどるという展開は、現代社会への痛烈な風刺として受け取ることができます。

出版情報

『鳥人大系』は、様々な出版社から単行本化されています。

ハードコミックス『鳥人大系』全1巻（大都社）
愛蔵版『鳥人大系』全1巻（大都社）
手塚治虫漫画全集『鳥人大系』全2巻（講談社）
角川文庫『鳥人大系』全1巻（角川書店）
手塚治虫文庫全集『鳥人大系』全1巻（講談社）

手塚治虫作品の中でも異彩を放つ『鳥人大系』は、読後、深く考えさせられる作品です。鳥人たちの物語を通して、人類自身の未来について、改めて問いかけられることでしょう。

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