黄信

黄信（こう しん）

中国の偉大な古典小説、四大奇書の一つに数えられる『水滸伝』に登場する人物。

人物概要

黄信は、地煞星（ちさつせい）の生まれ変わりとされる好漢百八人の一人で、梁山泊においては第三十八位に序列されます。彼の渾名は「鎮三山（ちんさんざん）」といい、これは青州の兵馬都監という高位の軍官であった頃、管轄下の清風山、二竜山、桃花山という三つの山に拠る山賊を一度に掃討すると豪語したことに由来します。彼の得物は喪門剣（そうもんけん）と呼ばれる騎兵用の長剣で、かつては五虎将の一人、秦明（しんめい）の部下でした。

物語中での活躍

黄信は青州の高官として物語に姿を見せます。ある年の正月、管轄下の清風塞を治める長官・劉高（りゅう こう）から、副長官の花栄（か えい）が清風山の山賊の首領と内通しているとの訴えを受けます。黄信は精鋭の兵五十人を率いて清風塞へ向かい、油断していた花栄を捕らえ、さらに山賊の首領とされた人物も捕縛し、共に青州へ護送することにしました。しかし、その途上、清風山を通過した際に、山賊の首領である燕順（えん じゅん）、王英（おう えい）、鄭天寿（てい てんじゅ）らとその手下たちの奇襲に遭います。黄信は剣を振るって応戦しますが、三人の首領に同時に斬りかかられては敵しきれず、逃走を余儀なくされました。この襲撃により、花栄と山賊の首領は奪還され、同行していた劉高は無残にも殺害されます。さらに事態を収拾しようと討伐に赴いた上司の秦明も、山賊たちに徹底的に打ち破られた末に降伏し、清風塞に残っていた黄信に梁山泊への仲間入りを勧めてきました。ここで初めて、山賊の首領とされていた人物が、かねてより義人として名高い宋江（そう こう）であったこと、そしてこれまでの全てが劉高のでっち上げであったことを知った黄信は、秦明の勧誘を受け入れ、梁山泊への合流を決意します。彼は清風塞の城門を開け放って清風山の山賊たちを引き入れ、合流。裏切り者の劉高の一族を皆殺しにし、囚われていた花栄の家族を救出しました。その後、一行は追討軍を避けるため、梁山泊へと身を寄せ、黄信もまた梁山泊の頭領の一人に名を連ねることとなりました。

梁山泊に合流してからは、故郷に戻った際に逮捕され、江州へ流罪となった宋江が、無実の罪により処刑されかけた事件において、救出活動に参加しました。しかし、その後の戦いでは目立った活躍が少ない時期もありました。祝家荘との戦いでは先鋒部隊を率いたものの、初戦で迷路に迷い込み、罠にかかって捕虜となってしまいます。続く高唐州（こうとうしゅう）攻めでは留守居役を務め、呼延灼（こえんしゃく）率いる討伐軍との戦いでは流れ矢に当たって負傷するなど、不運が続きました。そのため、因縁の相手がいた青州での戦いにも参加できませんでした。

百八星が集結した後の序列では、騎兵小彪将（きへいしょうひょうしょう）十六騎の筆頭という地位を得て、主に孫立（そん りつ）と共に、林冲（りんちゅう）の副将格として活躍するようになります。官軍との戦いでは、王慶（おう けい）討伐戦における最終決戦で敵将・潘忠（はん ちゅう）の首級を挙げ、方臘（ほう ろう）討伐戦では味方と敵がそれぞれ八人を選出して一騎討ちを行う場面で、味方側の代表八人の一人に選ばれ、敵将・郭世広（かく せいこう）と互角の戦いを繰り広げました。また、歙州（きゅうしゅう）の戦いでは、強敵として知られる王寅（おう いん）を討ち取る際にも加勢しています。

梁山泊軍が戦いを終えて凱旋した後、黄信は朝廷から官職と称号を授けられ、かつて自身が軍官を務めた青州の総司令官に任命されました。

補足

黄信は梁山泊に入山した当初、阮三兄弟（げんさんきょうだい）らよりも高い第八位の地位を与えられていました。しかし、物語が進み、戴宗（たい そう）や李逵（り き）、李俊（り しゅん）、穆弘（ぼく こう）といった新たな好漢たちが大量に入山してくるにつれて、その地位は徐々に下がり、最終的に百八人勢揃いの際には彼らよりも下位の第三十八位に落ち着いています。これは、『水滸伝』の物語の原型とされる『大宋宣和遺事（だいそうせんわいじ）』に黄信が登場しないことから、彼が花栄や秦明のエピソードを作る過程で必要に応じて生み出された人物であり、物語の都合上、当初は高い地位を与えられたものが、次第に他の好漢たちの登場に合わせて引き下げられていったものと考えられています。

また、日本の漫画家、横山光輝による漫画『水滸伝』では、原作とは大きく異なる立場で描かれています。この作品では、劉高に騙されて花栄と宋江を捕らえるまでは原作と同じですが、その後に黄信自身が清風山の討伐軍を率いる展開となります。一騎討ちでは花栄と互角に渡り合いますが、計略にかかって大敗し、山賊たちに捕らえられます。山賊からの仲間入り勧誘を断って青州に戻るものの、知事・慕容彦達（ぼようげんたつ）の邪推により反逆者の汚名を着せられた上、妻と子供を惨殺されてしまいます。これにより、やむにやまれず梁山泊入りするという筋書きとなり、梁山泊入山後も軍の主力として大いに活躍する人物として描かれています。この妻子の悲劇的なエピソードは、原作における秦明のそれに近い描写と言えるでしょう。

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