Γ-デカラクトン

γ-デカラクトン：桃の香りから体臭まで

γ-デカラクトンは、特有の芳香を持つ有機化合物です。その化学式はC₁₀H₁₈O₂で、分子構造中に不斉炭素原子を持つため、光学異性体（S体とR体）が存在します。S体は左旋性、R体は右旋性という性質を示します。

この化合物は、デカン酸から派生した環状構造を持っています。具体的には、デカン酸の4位の水素原子が水酸基に置き換わった4-ヒドロキシデカン酸が、分子内脱水縮合を起こすことでγ-デカラクトンが生成されます。

γ-デカラクトンの存在と用途

γ-デカラクトンは、様々な天然物に見られます。特に、桃の香りの主要成分として知られており、その甘い香りは、清涼飲料水や香粧品、医薬品、家庭用品などに広く利用されています。その他にも、アンズやイチゴなどの果物、発酵食品、更には和牛の肉にも含まれています。日本においては、食品添加物としての使用も認められています。
一方、消防法では危険物第4類第三石油類に分類されています。

γ-デカラクトンに関する研究

γ-デカラクトンは、香りに関する研究においても注目されています。

キンモクセイの香り: 広島大学大学院の研究では、キンモクセイの香気成分を分析した結果、γ-デカラクトンが重要な構成成分の一つであることが判明しました。キンモクセイの香りは遠くまで届くことが知られていますが、γ-デカラクトンは揮発性が比較的低いことから、他の成分、例えばβ-イオノンなどが香りの拡散に大きく寄与している可能性が示唆されています。同研究では、γ-デカラクトンがモンシロチョウ忌避効果を持つことも明らかにされました。

モルトウイスキーの香り: アサヒグループホールディングスの研究では、モルトウイスキーの香気成分としてγ-デカラクトンとγ-ドデカラクトンが発見されました。これは、ウイスキー製造工程において、不飽和脂肪酸が乳酸菌によってヒドロキシ脂肪酸に変換され、さらに酵母によるβ酸化を経てラクトンが生成されたものと考えられています。この研究成果は、2004年度日本醸造協会技術賞を受賞しました。

若い女性の体臭: ロート製薬の研究では、γ-デカラクトンとγ-ウンデカラクトンが、若い女性の体臭の構成成分であることが明らかになりました。特にγ-デカラクトンは20代で、γ-ウンデカラクトンは30代で、その濃度が大幅に減少する傾向が見られました。この研究は、2017年の日本味と匂学会で発表され、10代ではγ-デカラクトンが約0.1ppm、γ-ウンデカラクトンが約0.15ppm検出されたと報告されています。

まとめ

γ-デカラクトンは、その芳香性から食品や香料などに広く利用されているだけでなく、様々な研究対象としても注目を集めています。キンモクセイの香り、モルトウイスキーの香り、そして若い女性の体臭など、多様な場面での存在が明らかになり、その生理活性や生成メカニズムに関するさらなる研究が期待されます。

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