Ε-アミノカプロン酸

ε-アミノカプロン酸について

ε-アミノカプロン酸（イプシロンアミノカプロンさん）は、人工的に合成されたアミノ酸の一種で、特に止血剤としての用途で知られています。この化合物は、日本の医学者である岡本歌子によって開発されました。

投与方法

ε-アミノカプロン酸は、患者の状態や治療目的に応じて様々な方法で投与されます。主な投与方法としては、以下のものがあります。

経口投与: 錠剤やシロップなどの形で、口から摂取します。
静脈注射: 血管内に直接注射することで、迅速な効果が期待できます。
点眼: 目薬として、目の炎症や出血を抑えるために使用されます。

作用機序

ε-アミノカプロン酸の止血作用は、血液凝固系の重要な要素であるプラスミノーゲンというタンパク質の働きを調整することによって実現されます。通常、体内で出血が起こると、プラスミノーゲンはフィブリン（血液凝固の際に生成されるタンパク質）に結合し、プラスミノーゲン活性化因子（tPA、ウロキナーゼ）によって活性化されます。活性化されたプラスミノーゲンは、フィブリンを分解する働きを持ちます。

ε-アミノカプロン酸は、このプロセスにおいて、プラスミノーゲンがフィブリンに結合するのを阻害します。具体的には、プラスミノーゲンがフィブリンに結合する代わりにε-アミノカプロン酸に結合することで、プラスミノーゲンの活性化を抑制します。この結果、フィブリンの分解が抑制され、出血を止める効果を発揮します。

適用

ε-アミノカプロン酸は、様々な臨床状況でその効果を発揮します。主な適用例としては、以下のものが挙げられます。

手術後の出血抑制: 特に、手術後の出血を抑えるために広く使用されます。例えば、血友病患者の抜歯後や、冠状動脈バイパス手術後の出血を減らす効果が確認されています。
歯茎の出血・炎症の抑制: 歯磨き剤などに配合されることで、歯茎からの出血や炎症を抑える効果が期待されます。
その他: 鼻血や外傷による出血、月経過多など、様々な出血症状の抑制に用いられることがあります。

副作用

ε-アミノカプロン酸は、一般的には安全性の高い薬ですが、副作用が全くないわけではありません。主な副作用としては、以下のものが報告されています。

消化器系の症状: 吐き気、胃痛、下痢などの消化器系の症状が現れることがあります。
筋肉痛: まれに、筋肉痛や筋肉の痙攣が起こることがあります。
* 血栓のリスク: ε-アミノカプロン酸は、血液凝固を促進する作用があるため、血栓症のリスクを高める可能性があります。そのため、血栓症患者には禁忌とされています。

その他の情報

ε-アミノカプロン酸は、工業的には6-ナイロンの原料としても知られています。6-ナイロンは、ε-アミノカプロン酸がアミド結合によって重合した高分子化合物です。しかし、実際には、ε-アミノカプロン酸自体からではなく、そのラクタムであるε-カプロラクタムから開環重合によって製造されます。

注意事項

ε-アミノカプロン酸を使用する際には、医師や薬剤師の指示に従い、用法・用量を守って正しく使用してください。特に、血栓症の既往歴がある方や、副作用が出現した場合は、直ちに医師に相談してください。

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