「知」の欺瞞

『「知」の欺瞞――ポストモダン思想における科学の濫用』

アラン・ソーカルとジャン・ブリクモンによる著書『「知」の欺瞞』は、1997年にフランス語で初出版され、翌年には英語版が登場しました。本書は、ポストモダン哲学と科学の関係を探る中で、特に科学的概念が誤用されているケースを取り上げています。著者たちは、科学者や論理的思考を重んじる人々として、ポストモダンの知識人たちがどのようにして理論や概念を誤用しているのかを深く掘り下げています。

ソーカル事件とその背景

著者の一人であるアラン・ソーカルは、特に「ソーカル事件」として知られる出来事によって注目を浴びました。彼は1996年に学術誌『ソーシャル・テクスト』に無意味な論文を投稿し、それが実際に掲載されるという事件を引き起こしました。この事件は、ポストモダン思想がどのように科学や数学を誤用しているかという議論を促進させました。

本書の目的と構成

『「知」の欺瞞』は、ポストモダン思想の主要な知識人たちが、どのように科学的概念を不正確に用いているかを具体的に指摘しています。中で言及される著名な名前には、ジャック・ラカンやジル・ドゥルーズ、ブルーノ・ラトゥールなどがあり、彼らの作品から長文の引用がなされています。著者たちは、これらの知識人が物理学や数学の概念をどのように無理に近づけ、不適切に使用しているのかを示すために、慎重に引用を行っています。

本書の主な目的は、ポストモダニズム全般を非難することではなく、科学を扱う人々、特に学生たちに対し、確実にインチキである言説に警告を発することです。また、彼らは「脱構築」という概念を扱う著作を例に挙げ、難解であるが故に理解され難いテクストが多いポストモダン思想に対して批判を展開しています。彼らは、「テクストが難解に思えるのは、他でもなく中身がないからだ」と厳しく指摘します。

ポストモダン思想の科学への影響

ソーカルとブリクモンは、ポストモダン思想における認識的相対主義の問題を重要視しています。この考え方は、「現代科学は神話や物語と同等である」という立場を引き起こしており、彼らはこの思想が無論理的で危険であると警告します。本書は、左派思想の全体を攻撃することが目的ではなく、流行に便乗する一部から左派を守ることを目指しています。

多くの科学者からは本書は好意的に受容されましたが、人文学者の間では賛否が分かれました。支持者と批判者が交互に現れる様子が伺え、特に読書会では熱烈な議論が展開されました。

評価と批判

本書は哲学者や科学者から好意的に受け取られつつも、ポストモダン哲学者たちからは強い批判を受けることになります。例えば、ブルース・フィンクは、本書のアプローチを「恣意的かつ無意味」と批判し、著者が誤解している点を指摘しました。フィンクは、ラカンの思想の理解には独自の深い意味があり、単に無理解によって彼の思想を非難しているだけだと主張しています。

結論

『「知」の欺瞞』は、ポストモダン思想と科学の関係を再考させる重要な一冊であり、科学が教育においてどう扱われるべきかという観点も提起しています。著者たちの主張は、ポストモダン思想の危険性を指摘しつつ、学問に対する敬意を求めるものであり、今なお多くの議論を呼び起こす内容となっています。

もう一度検索