〜エルダー〜 魔界大決戦

キッス『〜エルダー〜 魔界大決戦（Music From "The Elder"）』：栄光と挫折のコンセプトアルバム

1981年に発表されたキッスの9作目のスタジオ・アルバム『〜エルダー〜 魔界大決戦』は、当初制作が中止された映画「THE ELDER」を基にしたコンセプトアルバムです。オリジナルドラマーのピーター・クリスの脱退後、エリック・カーが加入して初めてのアルバムでもあります。

幻の映画とアルバム制作の背景

ジーン・シモンズが原案を手掛けた映画「THE ELDER」は、制作中止となりました。しかし、シモンズとマネージャーは、既に制作されていた主題歌や挿入歌を生かすため、メンバーの反対を押し切ってコンセプトアルバムの制作を決定しました。

アルバムのコンセプトは、シモンズが愛するアメリカン・コミックス風の勧善懲悪なヒーロー物語です。闇のフォースに覆われた地球に、宇宙評議会エルダーから守護神モーフィアスが派遣され、闇に対抗する光の戦士として選ばれた少年が、自身の力に目覚め、エルダーの戦士として成長していく姿を描いています。

制作と評価

プロデューサーには、1976年の傑作『地獄の軍団（Destroyer）』を手掛けたボブ・エズリンが再び起用されました。エズリンは、かつて共に活動したルー・リードに楽曲制作の協力を依頼。シモンズは、当時本作に強い自信を持っており、「今までのキッスで最高の曲ばかりだ」と語り、続編の可能性にも言及していました。また、バンドの新たな一面を見せるため、初めてアルバムカバーにメンバーの姿を載せず、楽曲とコンセプトで勝負に出ました。

しかし、1981年11月16日に発表されたアルバムは、従来のポップな路線とは大きく異なり、音楽誌から酷評されました。ヒットチャートでも最高75位に終わり、翌年には圏外へ。セールス、評価ともに振るわず、キッスの歴史において「失敗作」として記録されることとなりました。大規模なライブツアーは行われず、プロモーションも数回のテレビ出演にとどまりました。

その後の展開

未発表曲だった "Nowhere to Run" は、後に編集アルバム『キッス・キラーズ』に収録。"Heaven" は、エリック・カーの死後に発表されたアルバム『リヴェンジ』（1992年）にインストゥルメンタル "Carr Jam 1981" として収録されました。

メンバーは、結果的に期待を裏切る形となった本作に良い思い出がないためか、「キッスの黒歴史」として半ば封印し、ライブでの演奏も避けられてきました。しかし、1996年にMTVアンプラグドに出演した際、「英雄なき世界」が披露されました。

収録曲

アルバムには、「ファンファーレ」、「少年」、「オデッセイ」、「勇者の誕生」、「薔薇の紋章の下」、「魔界の閃光」、「英雄なき世界」、「炎の誓い」、「罪深きブラックウェル」、「激烈! 大脱走」、「エルダーの戦士」などが収録されています。

イメージチェンジ

アルバム発表に際し、メンバーはイメージチェンジを行いました。ジーン・シモンズはトレードマークだったちょんまげを切り、髪を短くしました。ポール・スタンレーはソバージュヘアーを布でまとめ、胸元を隠す衣装に変更。エース・フレーリーは髪を短くし、ラメ入りのボディスーツを着用しました。

『〜エルダー〜 魔界大決戦』は、キッスの音楽性を大きく変えようとした意欲作でしたが、結果的に商業的な失敗に終わりました。しかし、その実験的な試みは、キッスの歴史において重要な転換点となりました。

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