あすなひろし

あすなひろし：叙情と職人技が織りなす漫画世界

あすなひろし（本名：矢野高行）は、1941年1月20日に東京都で生まれ、2001年3月22日に60歳で亡くなった日本の漫画家です。彼の作品は、叙情的な作風と、繊細なペンタッチ、ドラマチックな画面構成が特徴で、多くの読者を魅了しました。

生い立ちと広島での経験

6歳の時に父親の転勤で広島県呉市に移り住み、18歳までを広島で過ごしました。原爆投下後の広島で多感な時期を過ごしたことが、彼の作品に大きな影響を与えたと言われています。姉の今中鏡子さんは、「弟は感受性が強かったから、被爆後の広島を見て、相当影響を受けていると思う」と語っています。実際に、放射能の脅威を伝えた1971年の「赤いトマト」など、反戦や原爆をテーマにした作品も数多く残しました。

デビューから代表作へ

修道中学校・高等学校を卒業後、上京し、東宝映画宣伝部や商業デザイン会社に勤務。1959年に「まぼろしの騎士」で漫画家デビューを果たしました。1976年には、「少年チャンピオン」で発表した『青い空を、白い雲がかけてった』が代表作となり、連載は断続的でしたが5年間に及びました。この作品は、手塚治虫の『BLACK JACK』や水島新司の『ドカベン』などと共に、同誌の黄金期を支える作品となりました。

作風と職人としてのこだわり

あすなひろしの作風は、叙情を基本としながらも、時にはコミカルな要素も取り入れた幅広いものでした。少年誌、青年誌問わず、様々なジャンルの作品を手掛けました。彼の絵は、流麗な描線とドラマチックな画面構成が特徴で、特にペンだけで描き、背景などに使う独特の模様「カケアミ」は、他の漫画家には真似できないと高く評価されています。
また、コピーライターの糸井重里は、彼の作風を「真っ昼間の悲しさ」と評しました。

劇画を描く際には「臼杵三郎」というペンネームを使用しており、これは出身地である大分の臼杵郡と、好きな歌手である北島三郎に由来するとされています。しかし、公式サイトの記述では、本籍は宮崎県西臼杵郡三ヶ所とされています。

彼は、飲酒しながら原稿を執筆する習慣があり、晩年には飲酒量が増え、手が震えることもあったと元アシスタントの高信太郎は語っています。

晩年と再評価

私的なトラブルにより東京を離れ、40歳半ばで実家のある東広島市に帰郷。漫画よりも肉体労働に重点を置くようになり、晩年は寡作になりました。2001年に肺癌のため60歳で亡くなりました。

作中では、修正にホワイトを使わず、スクリーントーンの使用も極力避けるなど、非常に繊細なペンタッチで、職人気質な一面を覗かせました。また、写植や文字の白抜きも自身で行うなど、作品に対する強いこだわりを持っていました。

1972年には、『とうちゃんのかわいいおヨメさん』と『走れ!ボロ』で小学館漫画賞を受賞しています。

生前は、単行本化された作品が少なく、それらもほとんどが絶版となっていましたが、2002年より「あすなひろし追悼公式サイト」が『あすなひろし作品選集』の刊行を開始。これにより、今まで劣悪な印刷で表現できなかった、彼の流麗な線がB5判で再現され、再評価の動きが高まりました。また、2004年にはエンターブレインが『青い空を、白い雲がかけてった』と『いつも春のよう』を刊行したことで、一般書店でも手に入るようになり、再び多くの読者に読まれるようになりました。2004年には、NHK BSマンガ夜話でも取り上げられ、その作品の魅力が改めて紹介されました。

主な作品

彼の作品は多岐に渡りますが、代表的なものとして以下のものがあります。

サマーフィールド
からじしぼたん
心中ゲーム
ぼくのとうちゃん
哀しい人々
美しき5月の風の中に
青い空を、白い雲がかけてった
行ってしまった日々
風と海とサブ
かたばみ抄
サムの大空
白い星座
白い記憶
いつも春のよう
嵐が丘
みどりの花
呪啼夢
あすなひろし作品選集
林檎も匂わない
リチャード三世
* あすなひろしセレクション

まとめ

あすなひろしは、繊細な画力と叙情的な作風で、多くの読者を魅了した漫画家です。広島での被爆体験を背景に、反戦や平和をテーマにした作品も多く残しました。その職人気質な創作姿勢は、後世の漫画家にも大きな影響を与えています。

彼の作品は、現在も多くの人々に愛され、その魅力は決して色褪せることはありません。

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