あまくない砂糖の話

『あまくない砂糖の話』は、2014年に制作され、オーストラリアで公開されたドキュメンタリー映画です。原題は『That Sugar Film』。

この作品は、オーストラリア出身の俳優であり映画監督でもあるデイモン・ガモー氏が、自身の身体を被験者として行ったある実験の記録を軸に展開されます。実験の目的は、「健康に良いと一般的に考えられている食品」に潜む砂糖を日常的に摂取し続けた場合、人体にどのような影響が現れるのかを明らかにすることでした。

監督による人体実験とその結果

ガモー氏は、60日間にわたり、以下のルールで生活を送りました。

砂糖摂取量: 1日にティースプーン約40杯分、重量にして約160グラムの砂糖を摂取。これは当時の一般的なオーストラリア人の平均的な砂糖摂取量に相当します。
摂取源: 砂糖の摂取源は、ジャンクフードや甘いお菓子、甘味料入りの清涼飲料水などを意図的に避け、代わりにシリアル、低脂肪ヨーグルト、ビタミン添加飲料など、一般的に健康志向と見なされがちな食品から摂取しました。これらの食品は、しばしば炭水化物が多く、脂肪分は控えめです。
総摂取エネルギー: 1日の総エネルギー摂取量は実験開始前と同じ約2300kcalに維持されました。この中には、砂糖から摂取したエネルギーも含まれます。
運動習慣: 実験開始前と同様に、有酸素運動とレジスタンス運動の両方を含む運動習慣は継続されました。

ガモー氏は、この期間中に砂糖だけでなく果糖も摂取していました。実験開始前の彼の食生活は、エネルギー比率で脂肪50％、タンパク質26％、炭水化物24％という構成でした。

この60日間の実験期間を経て、ガモー氏の身体には顕著な変化が現れました。具体的には、脂肪肝を発症し、医師から糖尿病の初期症状と診断される寸前の状態に至ったほか、精神面でも無気力感に襲われるようになりました。

身体に見られた具体的な変化は以下の通りです。

実験開始から12日目で体重が3.2kg増加。
実験終了時には、開始前と比較して体重が合計8.5kg増加しました。
体脂肪率が7％増加。
腰回りが10cm拡大。
期間中、摂取エネルギーが2300kcalを下回った時期があったにもかかわらず、体重は増加し続けました。
血中の中性脂肪値が、正常値とされる20から倍の40（危険水域）へと急上昇しました。
実験開始後18日目には、内臓脂肪が著しく増加し、脂肪肝の寸前まで悪化しました。
内臓脂肪の増加を原因とする「糖尿病の初期症状」と医師から診断されました。
顔に吹き出物が現れました。
睡眠から覚めるとすぐに砂糖を求めるようになり、摂取しても時間が経つと再び強い渇望感に襲われるなど、依存のような状態が見られました。
常に倦怠感を覚え、砂糖への欲求が持続しました。
脱力感がひどく、継続していた運動に取り組むのが億劫になりました。

「至福点」の概念

映画の中では、「至福点（Bliss Point）」という概念が紹介されています。これは1960年代に生まれた言葉の一つで、「食べ物に添加する糖分の量が、ヒトが最も「美味しい」と感じ、幸福感を覚える最適な量」を指します。この量を超えて糖分を添加すると、かえって美味しさの感覚が低下するとされています。

60日間の実験期間を終えた後、ガモー氏は実験前の健康的な食生活に戻しました。砂糖の摂取を控え、肉などの動物性食品や緑色野菜、アボカド、ナッツ類を積極的に摂取する食生活に戻したところ、彼の体に現れていた病的な兆候は速やかに改善に向かいました。

出演者と製作背景

本作には、監督であるデイモン・ガモー氏のほかにも、著名な俳優陣や専門家が出演しています。ヒュー・ジャックマン、スティーヴン・フライ、イザベル・ルーカス、ブレントン・スウェイツといった俳優たちが登場。特にヒュー・ジャックマンは映画の前半で、人類が本格的に砂糖を消費するようになるまでの歴史をユーモラスに解説する役どころを演じており、「エリザベス1世は砂糖の過食により、歯が黒くボロボロだった」といったエピソードも語られます。

また、ニューヨーク・タイムズ紙のジャーナリストであるマイケル・モス氏や、サイエンス・ジャーナリストのゲアリー・タウブス氏も出演し、ガモー氏のインタビューに応じています。劇中に使用されているサウンドトラックには、ピーター・ガブリエル、デペッシュ・モード、フローレンス・アンド・ザ・マシーンといったアーティストの楽曲が使用されています。

デイモン・ガモー監督は、2004年のドキュメンタリー映画『スーパーサイズ・ミー』を自身の製作に大きな影響を与えた作品として挙げており、『あまくない砂糖の話』の製作にあたって大いに参考にしたと語っています。本作の製作には約3年の歳月が費やされました。

ガモー氏の妻であるゾーイ・タックウェル・スミス氏も本作に出演しており、実験開始前夜には夫に対して冗談めかして「無事でありますように」と声をかける場面があります。彼女は実験開始時点で妊娠しており、本作の製作期間中に娘を出産しています。

批評

『あまくない砂糖の話』は、公開後に様々な評価を受けました。

アメリカ合衆国での公開時には、概ね好意的な見方が多かったようです。ニューヨーク・タイムズ紙は、「コンピューターグラフィックス、音楽、寸劇、アニメーション、そして大胆な現地取材が見事に融合しており、栄養に関する情報を分かりやすく「消化」させてくれる」と肯定的に評価しました。ハリウッド・リポーター誌も、「ガモー監督は、難しい題材を明確な使命感を持って、親しみやすく楽しめる形に仕上げることに成功しており、一般の観客にも理解しやすい作品を作り上げた」と評しました。

一方で、批判的な意見も存在します。アメリカの時事雑誌『スレート』は、「この映画は加工処理が過剰で内容に深みがなく、見え透いた議論に満ちており、その論拠の弱さを視聴者から隠している」と厳しく批判しました。また、オーストラリアの日刊紙『シドニー・モーニング・ヘラルド』は、「この映画の中心的な議論の進め方は、定義上非科学的である。ガモー氏の一人による実験は厳密さに欠け、何らかの確固たる証拠を提示できるものではない」と、実験手法の科学的妥当性に疑問を呈する評価を下しています。

これらの批評は、本作が単なるエンターテイメントとしてだけでなく、科学的・栄養学的視点から議論を呼ぶ作品であることを示しています。

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