いずこねこ

いずこねこは、2011年10月から2014年8月にかけて活動した日本のソロアイドルプロジェクトである。シンガー・アイドルである茉里（現在の泉茉里）によって展開され、元ekomsに所属していた。

このプロジェクトは、音楽プロデューサーであるサクライケンタ氏が茉里と出会ったことから始まった。サクライ氏が自身の楽曲の仮歌を茉里に依頼したことがきっかけとなる。茉里が仮歌を務めたライブを観覧したサクライ氏は、茉里に才能を見出し、さらに、そのライブを観て「自身もステージに立ちたい」という意欲を示した茉里のために、オリジナルの楽曲を書き下ろすことを決めた。こうして、「いずこねこ」としての活動がスタートしたのである。

いずこねこの音楽性は、プロデューサーであるサクライケンタ氏が追求する独特の世界観によって特徴づけられる。彼は自身の音楽を「現音ポップ」と称しており、これは現代音楽の手法とポップスを融合させたものである。具体的には、一般的なポップスではあまり用いられない変拍子を多用する複雑なリズム構成や、ミニマルなサウンドアプローチなどが挙げられる。また、サクライ氏が紡ぐ歌詞は内省的で時に厭世的な色彩を帯びていたが、それとは対照的に、ステージ上の茉里は常に笑顔でパフォーマンスを見せた。この歌詞世界と表現方法との間に生まれるギャップこそが、いずこねこの最大の魅力の一つであり、多くのファンの心を掴んだ要因となった。

プロジェクト名の「いずこねこ」は、1996年に公開されたフランス映画『猫が行方不明』に触発され、「何処猫」という言葉をひらがなにしたもの。名称が示す通り、猫が主要なモチーフとしてプロジェクト全体に一貫して用いられた。楽曲の歌詞には猫の鳴き声の擬音語（「にゃー」など）が登場したり、リリースされた作品のジャケットや関連グッズのデザインには、印象的な猫のイラストが頻繁にあしらわれ、ビジュアル面でもプロジェクトの世界観を構築する上で重要な役割を果たした。

いずこねこは、2011年10月1日に初のステージを踏んだ。活動開始から間もない翌2012年には、国内最大級のアイドルフェスティバルであるTOKYO IDOL FESTIVALに初出場を果たすなど、急速に注目度を高めていく。2013年11月には、東京キネマ倶楽部にてバンド編成でのセカンドワンマンライブを成功させるなど、順調に活動の幅を広げていた。

しかし、その活動は予期せぬ形で転換点を迎える。2014年3月2日未明、サクライケンタ氏が自身のTwitterアカウントを通じて、いずこねこの活動終了を示唆するようなツイートを行ったことから波紋が広がった。翌3月3日には一転して活動続行が発表されたものの、結局、同年5月21日に、いずこねことしての活動を同年8月31日をもって終了することが正式に発表された。突然の発表は多くのファンに衝撃を与えた。

活動終了が決定した後、いずこねこの軌跡を辿るドキュメンタリー要素を含む映画『世界の終わりのいずこねこ』の制作が企画された。この映画はクラウドファンディングによって資金を調達し、制作が実現した。映画の関連活動に限り、「いずこねこ」名義での活動は継続され、映画は2015年3月7日に劇場公開された。いずこねこの独特な存在感と、活動期間中に収められた貴重な映像が作品に収められた。

いずこねこの活動終了後、メンバーであった茉里は、ミズタマリと改名し、元BiSのカミヤサキと共に二人組ユニット・プラニメ（後にGANG PARADEと改称）を結成して音楽活動を続けた。しかし、2015年5月にはプラニメを脱退している。その後は、本名の泉茉里として、THE 夏の魔物やエムトピといったグループのメンバーとして活動を展開している。一方、プロデューサーのサクライケンタ氏は、同じく元BiSのメンバーであるコショージメグミを中心に結成されたアイドルグループ、Maison book girlのプロデューサーとして現在も精力的に活動を続けており、独自の音楽世界を追求している。

なお、いずこねこは活動終了から時を経て、2022年に一度限りではあるが、楽曲制作という形で復活を遂げたことも特筆される。

このように、いずこねこは短い活動期間ながらも、その革新的な音楽性と独特のコンセプト、そして茉里とサクライケンタ氏による唯一無二の世界観によって、日本のアイドルシーンにおいて確かな存在感を示し、多くの人々の記憶に残るプロジェクトとなったと言えるだろう。

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