いとうたかお

いとう たかお

シンガーソングライター いとうたかお（本名：伊藤隆夫）は、1951年3月30日に静岡県で生まれました。現在は名古屋を拠点に、精力的な音楽活動を展開しています。

彼の音楽家としての道のりは、1971年、岐阜県で開催された中津川フォークジャンボリーで重要な局面を迎えます。会場の片隅に設けられた「黒テント」で披露された彼の歌声、特に自作曲「あしたはきっと」が、偶然居合わせた加川良の耳に留まり、高く評価されました。この出会いがきっかけとなり、加川を通じて高田渡に話が伝わると、高田は自身のアルバム『系図』に、いとう自身のボーカルによる「あしたはきっと」を収録するという異例の試みを行います。これにより、いとうたかおの名は早くからフォーク界で注目を集めることとなりました。

翌1972年、彼はベルウッド・レコードと契約を結び、シングル「あしたはきっと c/w かたつむり」で正式なデビューを果たしました。この記念すべき作品のレコーディングには、当時の日本のロック・フォークシーンを牽引するトップミュージシャンたちが集結し、はっぴいえんどの細野晴臣をはじめ、中川イサト、林立夫、駒沢裕城らが演奏面を強力にサポートしました。

アルバム制作にも意欲的に取り組み、1974年には中川イサトをプロデューサーに迎えたファーストアルバム『いとうたかおファーストアルバム』を発表。このアルバムには、伊藤銀次や岡田徹といった実力派が参加しています。さらに1976年には、センチメンタル・シティ・ロマンスやランニング・ベアがバックを務めたアルバム『BOOKING OFFICE』をリリース。この作品は、彼の代表作の一つとして現在も高く評価されています。

1970年代の関西フォークシーンを代表するイベントである「春一番コンサート」との深い関わりも、彼のキャリアを語る上で欠かせません。1971年の第1回公演にスタッフとして携わった後、1972年の第2回から1979年の第9回まで、連続してシンガーとして出演。関西フォークの重要な担い手の一人として、その存在感を示しました。1996年に再開された同コンサートにも再び参加しています。

一時期、彼は活動拠点を名古屋に戻し、バンド「バランス」を結成。「slow and through」（1982年）などの作品を自主制作で発表するなど、独自のスタイルで音楽活動を継続しました。その後も、意欲的にソロ作品を発表し続けており、『Around the Silence』（1999年）、『小さな唄に手をひかれ』（2000年）、ライブアルバム『Folk of Ages』（2005年）、そして近年では『そうかい』（2018年）などを世に送り出しています。

いとうたかおの表現活動は音楽の枠を超え、多岐にわたります。2007年には自らの言葉を綴った著書『小さな唄に手をひかれ』を、翌2008年には絵本『原っぱの中の原っぱ』（絵：本間希代子）を出版するなど、文筆家としても才能を発揮しました。また、俳優としても活動しており、2009年には小林政広監督の映画『ワカラナイ』に楽曲「Boy」を提供しテーマ曲として起用されたほか、2012年には堤幸彦監督の映画『MY HOUSE』でホームレスの主人公・鈴本さん役として主演を務め、高い評価を得ました。このほかにも、ドラマや映画作品に多数出演しており、シンガーソングライターとしての魅力に加え、俳優、文筆家としての顔も持つ、稀有な表現者です。

彼と交流のあった音楽家には、高田渡や加川良をはじめ、中川イサト、中川五郎、シバ、金森幸介、大塚まさじ、西岡恭蔵といった、日本のフォーク・ロックシーンを彩る多くのアーティストたちが名を連ねています。

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