いわみ型巡視船

いわみ型巡視船：コストと汎用性を両立した1000トン型巡視船

海上保安庁に所属するいわみ型巡視船は、1000トン型の大型巡視船（PL型）です。既存のしれとこ型巡視船の後継として建造されました。しれとこ型は長年の運用により老朽化が進み、更新が必要となっていました。しかし、単純な代替艦建造だけでなく、時代の変化を反映した新たな設計が求められました。

背景：警備とコストのバランス

2000年代以降、海上保安庁では高速性を重視したあそ型やはてるま型巡視船が建造されました。これらの船は優れた警備能力を有していましたが、高速航行時以外の動揺が大きかったり、航続距離が短かったりするなど、課題も抱えていました。しれとこ型は警備と救難の両面で活躍していた汎用性の高さから、単純な高速船では代替できない部分がありました。

平成21年度には、汎用性を重視したくにがみ型が建造されました。しかし、くにがみ型は74億円という高額な建造費がかかり、大量建造は現実的ではありませんでした。そこで、いわみ型はスペックをある程度抑えることでコスト低減を図り、しれとこ型の代替艦として量産することを目指して建造されました。

設計：コスト削減と実用性の両立

いわみ型は、くにがみ型と同様に従来型の排水量型船型を採用し、鋼鉄製の船体構造を持ちます。船首にはバルバスバウを備え、航行時の抵抗を低減しています。全通船楼型（遮波甲板型）で、安定した航行が可能です。

コスト削減のため、航空機運用能力は省かれていますが、救難活動に支障がないよう、船尾甲板は広く確保されています。また、フィンスタビライザーも省かれていますが、代わりにビルジキールを船体に設置することで、低速時の動揺を軽減しています。軽量化のため、船体には高張力鋼と軟鋼、上部構造物にはアルミニウム合金が使用されています。

機関室には、ヤンマー8N330-UWディーゼルエンジンを2基搭載し、可変ピッチプロペラによって推進力を得ます。バウスラスターも2基備え、狭い場所での操船も容易です。煙突は左右2本に分離され、曳航時の後方視界確保に配慮した設計となっています。特に、大型タンカーなどの曳航を想定し、強力な45トンの曳航能力を有しています。

装備：実用的な兵装と災害対応能力

主兵装は、はてるま型と同様の赤外線捜索監視装置と連動したブッシュマスターII 30mm機銃です。高圧放水銃も装備しており、消防活動や非致死性兵器としても使用可能です。

搭載艇は、高速警備救難艇2隻と複合艇1～2隻です。平成23年度以降建造された船には、東日本大震災での経験を踏まえ、造水装置、給水・給油装置、大型クレーンなどを追加した災害対応能力強化型も存在します。

建造と将来

平成22～23年度にかけて6隻が建造されましたが、尖閣諸島警備の必要性から、当初予定されていた建造計画は中止されました。その後、くにがみ型巡視船の建造が優先されたため、いわみ型の建造は一旦終了しました。しかし、令和6年度予算では、いわみ型を参考としたPL型巡視船1隻の建造が計画されており、いわみ型の設計思想は、今後の海上保安庁の巡視船建造においても重要な役割を担う可能性があります。

いわみ型巡視船は、コスト削減と実用性のバランスを追求した、実戦的な巡視船と言えるでしょう。その設計思想は、将来の海上保安体制にも影響を与え続けるものと期待されます。

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