えひめ丸事故

えひめ丸事故：悲劇の真相と教訓

2001年2月10日、ハワイ・オアフ島沖で発生したえひめ丸事故は、アメリカ海軍の原子力潜水艦グリーンビルが愛媛県立宇和島水産高等学校の練習船えひめ丸に衝突し、沈没させた痛ましい海難事故です。この事故により、教員と生徒合わせて9名もの尊い命が失われました。

事故の概要

ロサンゼルス級原子力潜水艦グリーンビルが浮上中に、えひめ丸（499トン）に衝突しました。えひめ丸は衝突後わずか5分程度で沈没。乗組員35名のうち、9名が死亡、26名が救出されましたが、救出されたうち1名が鎖骨骨折、11名が軽傷を負い、9名がPTSDと診断されるという深刻な被害をもたらしました。

事故当時、グリーンビルはソナーでえひめ丸の存在を認識していたにもかかわらず、民間人16名の同乗に対応するため、確認作業が不十分だったとされています。事故後、グリーンビルは現場海域に留まったものの、同乗の民間人に配慮したため、積極的な救難活動を行わなかったという非難の声も上がりました。アメリカ海軍は、当時の海が荒れていたため、潜水艦による救助活動は困難だったと主張しました。

捜索と引き上げ

事故発生から6日後の2月16日には、水深600mの海底に沈んでいたえひめ丸の船体が発見されました。当初、アメリカ海軍は引き上げコストを理由に難色を示しましたが、行方不明者の家族の強い要望や、日本の葬儀の慣習、感情などに配慮し、浅瀬への曳航を提案、家族側もこれを了承しました。日本政府も支援を行い、潜水艦救難艦「ちはや」を派遣、遺体捜索作業が行われました。アメリカ海軍のダイバーの協力により、11月7日までに8名の遺体が収容されました。

この引き上げ作業には、アメリカが6,000万ドルを投入しました。この費用負担については、アメリカ国内で議論を呼び、批判の声も上がりました。また、英語圏のマスコミ報道では、えひめ丸を「漁船」として報道し、高校生が乗っていた実習船であるという事実はあまり報道されませんでした。

ワシントン・ポスト紙は、「日本にはもう十分に謝った」という論説を展開し、日本側の過去の歴史問題について言及し、アメリカの謝罪姿勢と比較して批判しました。

引き上げ後の調査で、えひめ丸の船底に「くの字」型の亀裂が見つかり、下からの衝撃が沈没の原因だと判明しました。

事故後の動き

当時のグリーンビルの艦長であったスコット・ワドル中佐は、軍法会議で裁かれることなく、減俸処分のみで名誉除隊となりました。その後、海軍関連企業に再就職しています。2002年には宇和島市を訪れ、えひめ丸慰霊碑に献花しました。

2002年11月30日には、5代目えひめ丸が建造され愛媛県に引き渡されました。ホノルルと宇和島には慰霊碑が建立されています。

全国水産高校長協会は、2月10日を「海の安全祈念日」と定め、事故を風化させない取り組みを続けています。ハワイの航海カヌー「ホクレア」も、犠牲者の追悼のため宇和島市を訪問しました。

高野山高等学校の生徒たちは、毎年、高野山の奥之院燈籠堂で慰霊法会を行っています。

アメリカ国家運輸安全委員会（NTSB）は、事故に関する報告書を発表し、グリーンビルのワドル元艦長の責任を含め、アメリカ海軍の内部調査の多くを認めています。

ワドル元艦長は、2003年に著書「The Right Thing」を出版し、事故への対応を述べています。

えひめ丸事故の追悼歌・鎮魂歌として、以下の楽曲が制作されました。
「えひめ丸」（作曲・演奏：ジェイク・シマブクロ）
「あゝえひめ丸」（作詞：沖良雄、作曲：玉井知湖、歌：田中幸子、沖美恵子）
「海よ 鴎よ 島々よ」（作詞：宮内たけし、作曲：町田真理子、歌：町田真理子、多田周子）

事故から10年後の2011年からは、宇和島市で「うわじまハワイアンフェスティバル」が開催され、事故の記憶を風化させないための活動が続けられています。

発生から20年目の2021年には、ワドル元艦長が遺族に謝罪し、事故の責任は自分にあるとする書簡を公表しました。

慰霊碑と追悼式典

2002年には、ホノルルのカカアコ・ウォーターフロント・パーク内に慰霊碑が設置され、秋篠宮夫妻も慰霊を行っています。高野山高校の生徒たちも、海外研修で慰霊碑を訪れ、慰霊法会を行っています。

2021年には、愛媛県立宇和島水産高校で、事故後20周年の追悼式が開催されました。

類似の事故

過去には、潜水艦と船舶の衝突事故が複数発生しています。
1981年、米原潜が日本船籍の日昇丸を突き上げ沈没させる事故
1988年、海上自衛隊の潜水艦「なだしお」が遊漁船と衝突する事故
1988年、ペルー海軍の潜水艦がマグロ漁船と衝突し沈没する事故
2006年、海上自衛隊の練習潜水艦と貨物船が接触する事故
2007年、米原子力潜水艦が日本のタンカーと衝突する事故

これらの事故は、潜水艦の航行における安全対策の重要性を示唆しています。

えひめ丸事故は、二度と繰り返してはならない悲劇です。この事故を教訓に、海上における安全対策の徹底と、国際的な協力体制の構築が不可欠です。

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