おおぐま座ベータ星

おおぐま座β星は、夜空で容易に見つけられるおおぐま座の一部をなす、明るい恒星です。特に、誰もが知る「北斗七星」と呼ばれる特徴的なアステリズムを構成する七つの星の一つとして数えられています。その明るさは見かけ上二等星に分類されます。

北斗七星を構成する星々は、柄杓のような並びをしており、おおぐま座β星（メラク）はその柄杓の「椀」の部分にあたります。現在の北極星であるポラリスに最も近い星から数えて二番目に位置しており、その位置関係は天測や方位の特定において重要な役割を果たします。おおぐま座のα星（ドゥーベ）とβ星（メラク）は、合わせて「指極星」として知られています。この二つの星を結んだ直線を、α星の方向に伸ばしていくと、ほぼ正確に現在の北極星であるポラリスに行き着くことができます。一方、β星の方向に逆向きに伸ばしていくと、しし座の一等星レグルスを指し示します。このように、β星は夜空の重要な目印としての機能を持っています。

興味深いことに、β星は「ベータ」の符号を持ちながらも、北斗七星の中では現在の観測で五番目の明るさしかありません。これは、16世紀の天文学者ティコ・ブラーエが作成した星表において、北斗七星の全ての星を見かけ上同じ二等星として扱っていたことに由来します。後のヨハン・バイエルは、この星表に基づいて、星の明るさではなく北極星からの距離順にアルファベット符号を割り振りました。そのため、北極星に近い順にα、β、γ...と符号が付けられましたが、現在の高精度な観測では、実際の明るさ順とは異なる結果となっています。

β星の特筆すべき物理的特徴の一つは、周囲を取り巻く加熱された宇宙塵の存在です。この塵は円盤状の構造を形成し、赤外線を放射していることが観測されています。これは、例えば有名なフォーマルハウトやベガといった他の若い星の周りで見られる塵円盤と似た現象です。具体的には、この星から土星の軌道半径に相当する距離に、数百ケルビン程度の比較的温度の低い宇宙塵が集まった帯が発見されており、これは我々の太陽系で観測されるカイパーベルトのような構造と類似している可能性を示唆しています。

また、北斗七星を構成する星のうち、α星（ドゥーベ）とη星（アルカイド）を除く五つ（β, γ, δ, ε, ζ）は、「おおぐま座運動星団」と呼ばれる、宇宙空間を共に運動する星の集団に属しています。これは、これらの星々が過去に同じ巨大なガス・塵の雲から誕生し、現在も比較的近い距離にまとまって移動していることを意味します。もし、β星の周りに惑星が存在すると仮定した場合、この運動星団に属する他の明るい星々（γ星フェクダ、δ星メグレズ、ε星アリオト、ζ星ミザール）は、その惑星から見ると、それぞれが非常に明るい、ゼロ等級よりもさらに光り輝く星として夜空に君臨することになると考えられます。ただし、現時点ではβ星の周囲に惑星が存在するという確かな証拠は見つかっていません。

この星は学術的にはBeta Ursae Majoris、略してβ UMaと呼ばれています。古くから人々に親しまれてきた固有名は「メラク」(Merak)です。この名称は、アラビア語で「大熊の腰」を意味する marāqq al-dubb al-akbar に由来しており、おおぐま座の中でβ星が熊の腰の位置にあたることにちなんでいます。ちなみに、アンドロメダ座のβ星の固有名である「ミラク」(Mirach)も同じ語源を持つ兄弟のような名前です。国際的な天文学の標準化を進める国際天文学連合（IAU）の恒星の命名に関するワーキンググループ（WGSN）は、2016年6月30日にこの「Merak」という名称をβ星の正式な固有名として承認しました。

アジアの伝統的な天文学においても、この星は重要な位置を占めていました。中国の歴史書である『史記』の「天官書」をはじめとする正史の天文志では、「天璇」（てんせん）という名で記録されています。また、唐代に成立した仏教の密教経典『仏説北斗七星延命経』では、「巨門」（こもん）という名で呼ばれており、星に対する信仰の対象ともなっていたことが伺えます。

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