おんな港町

1977年2月5日、日本を代表する演歌歌手、八代亜紀の19枚目のシングルとして「おんな港町」（おんなみなとまち）は世に送り出されました。この楽曲は、瞬く間に人々の心を捉え、八代亜紀のキャリアにおいて最も輝かしい時期を象徴する一曲となりました。哀愁漂うメロディーと情感豊かな歌声が織りなすこの歌は、当時の社会情勢とも相まって、幅広い層からの支持を獲得し、数々の栄誉をもたらすこととなります。本稿では、この「おんな港町」がどのような楽曲であり、発表から現在に至るまで、日本の音楽史においてどのような位置を占めているのかを詳細に解説します。

「おんな港町」は、八代亜紀のために書き下ろされたオリジナル曲ではなく、実はカバー楽曲です。原曲は、1973年に南有二とフルセイルズによって発表された同名の楽曲「おんなみなと町」でした。八代亜紀は、このフォークやムード歌謡の要素を持つ楽曲を、自身の演歌歌手としてのスタイルで見事に歌い上げています。ただし、単なる忠実なカバーではなく、八代版はオリジナルのメロディーラインに一部変更が加えられています。このアレンジによって、より八代亜紀の世界観に寄り添った、情感豊かな楽曲へと昇華されています。作詞は二条冬詩夫、作曲および編曲は伊藤雪彦が担当しました。特に伊藤雪彦による編曲は、八代亜紀の歌声を最大限に引き立てるオーケストレーションが施されており、楽曲の持つ哀愁やドラマ性を際立たせています。シングルのA面として収録されたこの曲の演奏時間は3分9秒でした。

「おんな港町」が発売された1977年は、八代亜紀の人気が頂点に達していた時期です。特に、前年にリリースされた「もう一度逢いたい」のヒットに続き、この「おんな港町」もまた大ヒットを記録しました。当時の八代亜紀の楽曲は、多くのリスナーに愛されていましたが、中でもユニークなエピソードとして語り継がれているのが、長距離トラックの運転手たちからの熱烈な支持です。彼らから「長時間運転する際に集中力を保てる」「眠気を覚ましてくれる」「心の癒しになる」といった具体的な声が多数寄せられたと言われています。これは、八代亜紀の歌声が持つ力強さと哀愁が、過酷な仕事に従事する人々の心に深く響いたことを示しています。このように、特定の職業に従事する人々からの熱狂的な支持は、当時の八代亜紀が単なる流行歌手ではなく、人々の生活や感情に深く寄り添う存在であったことを物語っています。

「おんな港町」は、商業的な成功に加え、数々の音楽賞に輝きました。その年の年末、1977年に行われた第10回全日本有線放送大賞では、その功績が認められ特別賞を受賞しました。これは、有線放送を通じてリクエストが多数寄せられ、広く国民に愛された楽曲に贈られる権威ある賞の一つです。さらに、この年の音楽界における八代亜紀の活躍は、年末の第28回NHK紅白歌合戦にも結実しました。八代亜紀は、この紅白歌合戦において、女性歌手の最後に歌う「紅組トリ」という、その年を代表する女性歌手のみに与えられる大役を初めて務め、日本中の注目を集める中で「おんな港町」を熱唱しました。このトリでの歌唱は、八代亜紀が名実ともに日本の歌謡界の頂点に立った瞬間であり、多くの人々の記憶に鮮明に残っています。

「おんな港町」のシングル盤は、A面に表題曲、B面にカップリング曲「盛り場」が収録されていました。この「盛り場」もまた、「おんな港町」と同様に、作詞を池田充男、作曲・編曲を伊藤雪彦が担当しています。盛り場というタイトルからも想像できるように、こちらは都会の夜の情景や人間模様を描いた楽曲であり、「おんな港町」が持つ港町の情景とは対照的ながらも、演歌らしい哀愁と情感を兼ね備えています。収録時間は3分45秒でした。このように、A面とB面で異なる情景を描きながらも、八代亜紀の歌声と伊藤雪彦のアレンジによって統一感のあるシングル盤となっています。

八代亜紀の「おんな港町」は、カバー曲でありながら、原曲の魅力を引き継ぎつつ、自身の歌唱スタイルとアレンジによって新たな生命を吹き込み、オリジナルを超えるほどの成功を収めた稀有な例と言えるでしょう。長距離トラック運転手からのユニークな好評、全日本有線放送大賞特別賞の受賞、そして紅白歌合戦での紅組トリという輝かしい実績は、この楽曲が当時の社会においていかに大きな影響力を持っていたかを如実に示しています。八代亜紀のキャリアを語る上で欠かせない一曲であり、日本の歌謡史においても、時代を超えて愛される名曲としてその名を刻んでいます。

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