おトラさん (映画)

1957年、東宝系で公開された人気喜劇映画『おトラさん』

1957年11月12日、東宝系で公開されたモノクロ映画『おトラさん』は、全6作からなるシリーズの第一作目です。原作は西川辰美による漫画で、1950年から1954年にかけて雑誌『主婦の友』や『読売新聞』に連載され、ラジオ東京テレビ（現TBSテレビ）でもドラマ化され人気を博していました。特に柳家金語楼が演じたおトラさんは、大きな話題となり、彼の当たり役となりました。映画版は、ラジオ東京テレビとスポンサーのノーシン（現在の株式会社アラクスの母体）が製作に協力しています。

テレビ版と同じ豪華キャストと、個性的な審査員たち

映画版『おトラさん』の出演者は、テレビドラマ版とほぼ同じです。さらに、原作者の西川辰美氏と、当時「何と申しましょうかァ」という名台詞で人気の野球評論家、小西得郎氏が審査員として出演しています。小西氏は、このシリーズ全作品に出演し、毎回「何と申しましょうかァ」という決め台詞を披露しています。また、おトラ役の金語楼氏も審査員の一人として二役を演じています。ただし、おトラが歌を歌うシーンでは、別の人が吹き替えを担当しています。

金語楼氏の人気作であるにも関わらず、地上波での放送は長くありませんでしたが、CS放送の開始後は繰り返し放送され、改めてその魅力が再認識されることとなりました。

東京・光が丘を舞台にした、おトラさんと日野江家の物語

物語は東京の光が丘に住む日野江家の日常を描きます。家族は、父親の牛三、母親の馬子、長女のトリ江、長男のタツオ、そして女中のおトラの5人です。おトラはただの女中ではなく、馬子が日野江家に嫁いだ20数年前から仕え、馬子の体の弱さをカバーするように家事全般を担い、一家を支える存在となっています。その腕前は高く、泥棒を捕まえたことで警察署長から感謝状をもらったほどです。

ある日、トリ江が放送局に入社することになります。トリ江を育ててきたおトラは、心配で弁当を届けに放送局へ。そこで近所の芋屋で買った焼き芋を局の重役へプレゼントしてしまい、トリ江は恥ずかしい思いをします。しかし、この出来事がきっかけで、新番組の企画に悩んでいたトリ江の同僚・上月が「女中街録」「女中御用聞きのど自慢コンクール」といった斬新な番組企画を思いつきます。

予想外の展開と、おトラさんの恋？

ところが、数日後、トリ江と上月は番組の人気が低いことを上役から叱責されます。その知らせは、おトラを通して近所の女中仲間や御用聞きたちの耳に入り、皆はトリ江を助けるため、「のど自慢コンクール」で番組を盛り上げようと決意します。

いよいよ当日、白熱したのど自慢コンクールも最終戦。おトラの出番です。最初は緊張していましたが、歌い始めるとパワフルな歌声を披露し、女中軍の勝利に貢献します。その様子を見た審査員の小西氏は、1週間前に番組に出演した男性から、おトラを嫁にしたいという申し出があったことを伝えます。

急な縁談に戸惑うおトラですが、皆に勧められ、結婚を決意。しかし、後日小西氏が日野江家に訪れ、申し出は誤解だったと告げます。それを知らずにおトラは家を出てしまい、日野江家はおトラの不在に騒然となります。

謎の「妹」と、クリーニング屋の平さん

そこへ、おトラの妹を名乗る「小虎」が現れ、おトラの代わりに働き始めます。やがて、縁談の誤解が解け、おトラが帰宅。皆は喜びますが、おトラは小虎を全く知りません。そして、買い物から帰ってきた小虎の正体は、なんとクリーニング屋の平さんという男性で、おトラの女中仲間のお八重に想いを寄せていたことが判明します。お八重に近づくために、妹の扮装をしていたのです。

最初は怒っていたおトラも、日野江家の家族や仲間たちに諭され、平さんを許します。そして、おトラは再び日野江家で働き始め、女中仲間や御用聞きたちと喜びの歌を歌い、日野江家の一員として幸せな日々を送るのでした。

スタッフ、キャスト、そしてCS放送での再評価

この映画は、多くのスタッフ、キャストの協力によって制作されました。監督は小田基義氏、脚本は有崎勉氏と新井一氏、音楽は奥村一氏など、多くの才能が集結しています。さらに、CS放送での放送によって、現代の視聴者にもその魅力が伝わるようになりました。2004年には日本映画専門チャンネルで放送され、2006年にはチャンネルNECOでシリーズ全6作が放送されました。

『おトラさん』は、昭和時代の日本社会の温かさや人情味を感じさせる、心温まる喜劇映画です。時代を超えて愛される、名作と言えるでしょう。

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