お歯黒べったり

お歯黒べったり

お歯黒べったりは、日本の伝説に登場する妖怪であり、その姿は目も鼻もない不気味な顔に、お歯黒を付けた大きな口のみが特徴です。この妖怪については、江戸時代後期に出版された『絵本百物語』に描かれており、その存在はこの作品を通じて広く知られるようになりました。

歴史的背景

『絵本百物語』の詞書によれば、ある人が古びた神社の前を歩いていたところ、美しい女性が伏し拝んでいるのに声をかけようとした場面が描かれています。しかし、その女性が振り向くと、驚くべきことにその顔には目も鼻もなく、ただ大きな口で笑っている姿が目に飛び込んできたのです。このビジュアルは、見た者に大きな恐怖を与え、「二度と見たくない」と思わせるほどのものだったようです。また、同様の話が中国の『新燈開語』にも見られることから、文化的な交流の一端とも考えられます。

さらに、お歯黒べったりは、のっぺらぼうと呼ばれる妖怪とも関連があるとされ、こちらも顔の特徴が恐怖を誘う存在です。平安時代の『源氏物語』の中には、「目も鼻もない女鬼」という記述があり、目や鼻を持たない女性の妖怪の存在が古くから認識されていたことがうかがえます。

現代における理解

昭和や平成以降の解説では、水木しげるの著作を通じてお歯黒べったりの存在がさらに知られるようになりました。彼によれば、この妖怪は夕暮れの神社や寺に現れ、通りかかる人々を驚かせることがあるとのことです。また、稀に家の中にも現れることがあるため、注意が必要です。

影響を受けた物語

たとえば、福島県の「じゃんがら念仏」では、お歯黒べったりに似た女性のエピソードが語られています。盆踊りの最中、一人の美しい女性が目を引き、その後興味を持った若者たちが彼女を追いかけるという物語です。若者たちは最初、女性に感謝の意を表するために草むらで一緒に過ごすのですが、女性が手ぬぐいを外すと、そこにはただお歯黒を付けた大きな口しか存在していなかったのです。この恐怖体験により、若者たちは再び会いたいという希望すら消えてしまうのでした。

角隠しの象徴

お歯黒べったりを描いた絵には、角隠しが特徴的に描かれています。通常、角隠しは上級武家の女性や浄土真宗信者が寺社に参拝する際に着用するものであり、そのため妖怪の背景にも寺社が描かれています。このことから、単に美しい着物と結び付けて「結婚前に死んだ女性の亡霊」と解釈されることもありますが、それはあくまで解釈に過ぎません。

このように、お歯黒べったりは日本の伝統的な妖怪の一つとしてその姿や物語が語り継がれています。その恐怖のエピソードは、今後も人々の好奇心をかき立て続けることでしょう。

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