お茶漬ナショナリズム

お茶漬ナショナリズム

三島由紀夫による『お茶漬ナショナリズム』は、日本人や日本文化に対する未熟な理解を批評する評論・随筆です。1966年に発表され、当時の日本人が抱える文化的矛盾やアイデンティティの問題に焦点を当てています。三島は、海外経験を通じて日本の良さを見出す現象を「お茶漬ナショナリズム」と名付け、西洋と日本を比べる視点から日本人の精神的価値を問い直しています。

現代日本人と新帰朝者

著者は、「新帰朝者」と呼ばれる現代の日本人について語り、彼らの海外経験がどのように日本文化への理解を歪めているかを考察します。三島が言うには、僅かな外の世界への旅行だけで、カルチャーショックを受けたり、日本を否定的に捉えたりする人々がいます。一方で、近年は「日本は大したもんだ」と考える人々も増えており、これらの派閥が生じていることを指摘しています。

彼は、日本の近現代史を見据え、「西洋の鏡」を通じて日本が映し出され、自己の価値を見失った様を描いています。明治時代の新帰朝者は、西洋文明に対抗することなく日本の精神的価値を重視していましたが、時代が進むにつれ、物質主義に浸透していったのです。

お茶漬ナショナリズムの実情

「お茶漬ナショナリズム」は、日本に帰国した日本人が留学先の文化に感化され、一時的な心の拠り所として日本の伝統的な食文化であるお茶漬を学び直すことから表れています。三島は、国内の美味しさや文化が、海外への目が向くことで再認識される様子を描写し、こうした状況は一種の多様なナショナリズムの現れであると分析します。

三島は、食文化だけでなく、日本の精神的価値や文化的アイデンティティを失うことの危険性を訴え、「日本はまだ貧しい派」と「日本は大したもんだ派」という二つの論調が、日本の真の価値を理解する妨げになっていると主張します。彼は、物質的な豊かさと精神的な充足は別物であるとし、「お茶漬」が日本人にとって揺るがないアイデンティティの象徴であるとするのです。

外国との比較を超えて

三島は、「比較をやめて日本の本質を考えることが肝要」と提唱します。海外の文化を基準に日本を語るのではなく、単純に「お茶漬は美味しい」と言い切り、日本の特出した文化を見直す姿勢が重要だと述べています。現代日本に蔓延する「文明開化的思考」は、外的な価値観に支配され、日本の根幹となる価値を見失う原因であるとし、これを排除するべきだと主張します。

日の丸と日本人の誇り

また、三島は日の丸に触れ、その美しさを称賛することで、日本文化の象徴に対する誇りを再確認します。自国の文化や伝統への愛着が、日本人同士で共有されていることを強調し、外国人に対する接し方が古の日本の接客道徳から逸脱していることに警鐘を鳴らします。

三島が問う未来の日本

最後に、三島は未来の日本人に向けて、日本のユニークな精神的価値を誇りとして生き、他者に対しても真の日本の姿を理解してもらうよう呼びかけます。中途半端なナショナリズムに陥るのではなく、しっかりとした自国への誇りを持つことが、今も未来も重要であるというメッセージが込められています。日々の生活の中でこそ、日本の文化や精神を生かしていく道を模索する必要があります。

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