かに座55番星b

かに座55番星b（別名：Galileo）は、地球から見てかに座の方向に位置する、太陽によく似た恒星かに座55番星（Copernicus）の周囲を巡る巨大な太陽系外惑星です。この惑星は、主星から比較的近い距離を約14.65日という短い周期で公転しており、かに座55番星系に属する既知の惑星の中では、最も内側を回るかに座55番星eに次いで2番目に主星に近い軌道をとっています。発見当初はその軌道特性から「ホット・ジュピター」の一例に挙げられましたが、より厳密には公転周期がペガスス座51番星bのような典型的なホット・ジュピターほど短くないため、「ウォーム・ジュピター」として分類されることもあります。

発見の経緯

かに座55番星bは、多くの太陽系外惑星と同様に、主星の視線速度の変化を観測することによって発見されました。これは、惑星の重力が恒星をわずかに揺るがす際に生じる、恒星からの光のドップラー効果によるスペクトル線の周期的なずれを検出する手法です。かに座55番星のスペクトルを詳細に測定した結果、約15日間の周期で視線速度が変動していることが明らかになり、この変動が惑星の存在を示唆しました。かに座55番星bの発見は、1996年に天文学者ジェフリー・マーシーやポール・バトラーらのチームによって公表されました。この発見は、パルサーの周囲を公転する特殊な惑星を除けば、既知の太陽系外惑星としては4番目の事例となり、太陽に似た恒星の周りを公転する惑星探査の歴史において重要な一歩となりました。同じ1996年には、うしかい座τ星bやアンドロメダ座υ星bといった他の初期の系外惑星も同様の手法で発見され、系外惑星研究の黎明期を彩りました。

かに座55番星bの存在を考慮に入れてもなお、主星の視線速度には説明のつかない変動が残っていたことから、系内にさらに別の惑星が存在する可能性が推測されました。その後の継続的な観測により、2002年にはより外側の軌道を回るかに座55番星dが発見されています。現在までに、かに座55番星系にはかに座55番星bを含め、b、c、d、e、fという5つの惑星が存在することが確認されています。

軌道と質量

かに座55番星bの軌道は比較的円形に近いことが特徴で、発見当時に知られていた他のホット・ジュピター、例えばペガスス座51番星bなどと比べると離心率は小さい傾向にあります。その公転周期は約14.65日ですが、計算上はこの周期がかに座55番星cの公転周期と1:3の軌道共鳴に近い関係にあることが示唆されています。しかし、惑星の軌道パラメータに関するシミュレーションを行った結果、周期の比率が近くても、必ずしも真の共鳴状態にあるわけではないことが示されています。

2012年には、かに座55番星bが主星の前を通過する際の、大気上層部による恒星光の吸収が観測されました。この通過現象から、惑星の軌道傾斜角が約85度であることが明らかになりました。この値は、同じ系内の惑星であるかに座55番星eと、ほぼ同じ軌道平面上にあることを示しています。軌道傾斜角が分かったことで、観測された視線速度変動から計算される惑星の最小質量ではなく、真の質量に強い制約を与えることが可能となりました。その結果、かに座55番星bの質量は、木星の約80%であることが推定されています。ただし、この軌道傾斜角は厳密な中心食（恒星を完全に覆い隠す通過）には至らないため、惑星の半径や密度を直接的に観測から決定することは難しくなっています。

特徴

かに座55番星bは、明確な固体表面を持たない巨大ガス惑星であると考えられています。2012年の大気通過観測からは、惑星の上層大気が水素を主成分としていることが示唆されました。前述の通り、軌道傾斜角が恒星面を完全に通過するほどではないため、惑星の正確な半径や密度、表面温度といった物理的な特性は現在のところ直接的には分かっていません。

もし惑星の組成が木星と類似しており、大気環境が化学平衡に近いと仮定するならば、かに座55番星bの大気上層には目立った雲は存在せず、そのスペクトルにはアルカリ金属の吸収線が豊富に現れると予測されています。また、大気通過の観測は、主星からの強い熱を受けて惑星の大気がゆっくりと蒸発している可能性も示唆しています。しかし、これまでに詳細に研究されてきた他のホット・ジュピターと比較すると、かに座55番星bの蒸発速度は相対的に遅いと考えられています。巨大ガス惑星であるため、もし大きな衛星を持っていたとすれば、主星からの強い潮汐力によってその衛星は短期間のうちに破壊されるか、惑星から弾き飛ばされてしまうと考えられます。このことから、かに座55番星bは大きな衛星を伴っていない可能性が高いと推測されます。

名称

2015年に国際天文学連合（IAU）が、太陽系外惑星系の名称を一般から公募し、投票によって決定する「NameExoWorlds」というキャンペーンを実施した際、かに座55番星系も命名の対象となりました。世界中から寄せられた候補の中から、オランダのアマチュア天文家団体連盟が提案した名称案が選定され、2015年12月15日にIAUによって正式に発表されました。

この決定に基づき、主星のかに座55番星にはポーランドの天文学者ニコラウス・コペルニクスにちなんで「Copernicus」という固有名が与えられました。そして、かに座55番星bには、イタリアの偉大な天文学者ガリレオ・ガリレイに由来する「Galileo」という名称が付けられました。同じ系内の他の惑星にも、ティコ・ブラーエ（c）、ハンス・リッペルハイ（d）、サハリアス・ヤンセン（e）、トーマス・ハリオット（f）といった、天文学や望遠鏡開発に貢献した歴史上の人物の名前がそれぞれ命名されています。これらの名称は、系外惑星系が太陽系と同様に固有の名前を持つ対象として認識されるようになった一例と言えます。

もう一度検索