からっ風野郎

映画『からっ風野郎』について

『からっ風野郎』は、1960年3月23日に公開された日本映画で、監督は増村保造、脚本は菊島隆三が手掛けました。この作品は、いわゆるヤクザ映画として位置付けられていますが、単なる娯楽作品ではなく、文学的要素や人間ドラマを融合させた異色作といえるでしょう。この映画は、日本の作家であり、既に高名であった三島由紀夫が俳優として初めて主演した作品であり、彼の俳優としての苦悩や成長の過程を描いています。

映画の主なあらすじ

物語は、落ち目のヤクザ二代目の朝比奈武夫が、敵対する組織の殺し屋に命を狙われるところから始まります。武夫は情婦の香取昌子との巧妙なやり取りを経て、様々な人間関係や騒動に巻き込まれていきます。特に印象的なのは、武夫が恋に落ちる新しいキャバレーの女の子、小泉芳江との出会いであり、彼女の影響を受けて少しずつ堅気の生活を考え始めるところです。

しかし、武夫の平穏な日常は長続きせず、新興ヤクザに絡むトラブルや自らの家族の因縁が彼を追い詰めていきます。最終的には、武夫は命を狙われ、衝撃的なラストを迎えることになります。その結末は、ただの刑事物語に留まらず、深い人間ドラマと愛の物語をも併せ持っています。

三島由紀夫の俳優デビュー

この映画は三島にとって重要な転機でした。彼は脚本を担当した菊島隆三の書いた作品に非常に共感し、主演を快諾したといいます。撮影中、三島は増村監督の厳しい指導に直面し、その中で芽生えた彼の演技に対する苦しさと向き合っていました。特に増村監督は厳しい演技指導で知られ、三島に対しても容赦なく注文を出し続けました。

彼は物語の主人公に自分自身を重ね合わせながら、俳優としての自分を模索していきますが、その過程で自身の限界を痛感させられ、俳優としての道が簡単ではないことを学びました。映画が公開された際には、彼の演技力に対する評判は賛否が分かれ、特に三島の素人感には厳しい批判があったことも事実です。彼は「映画の中で私自身の滑稽さや臆病さが明らかになり、驚くべきことだった」と後に語ることになります。

映画の影響と評価

『からっ風野郎』は興行的には成功を収めたものの、三島の演技が目立ち、彼の大根役者ぶりがことさら際立つ結果となりました。多くの評論家が彼の演技に対して辛辣なコメントを寄せましたが、同時に彼の努力や成長を評価する声もあります。特に監督の増村が彼に与えた影響や、共演者との関わりは、三島にとって忘れられない経験となり、その後の作品にも影響を与えました。

彼の演技の成長は、三島自身が自身のキャリアにおいて重要な財産として活かしていくこととなります。また、この作品を通じて、三島は役者としての魅力や複雑性を深め、後の自作にシネマティックなエッセンスを取り入れていくことになります。

結論

『からっ風野郎』は、三島由紀夫が自身の文壇から一歩踏み出し、映画界に挑戦した重要な作品であり、その挑戦は単なる映画製作を越え、彼自身の人間的な探求に繋がるものでありました。この映画は、ヤクザという背景を借りた純愛の物語であり、三島の新たな一面を垣間見ることができる作品でもあります。

もう一度検索