かわいい魚屋さん

童謡「かわいい魚屋さん」

「かわいい魚屋さん」（かわいいさかなやさん）は、1930年代に誕生した日本の著名な童謡です。詩を加藤省吾、曲を山口保治が手がけ、1937年（昭和12年）に完成しました。翌年の1938年（昭和13年）には、ビクターレコードから奈良原馥の歌唱で録音され、世に送り出されました。この歌のタイトルには、「可愛い魚屋さん」や「可愛いい魚屋さん」といった表記も見られます。

楽曲の解説

この童謡は、天秤棒を担いで魚売りに扮する男の子の「ままごと遊び」の情景を、生き生きとリズミカルな表現で描き出しています。歌詞には子どもたちの見立て遊びの様子が鮮やかに織り込まれています。

音楽的な特徴としては、古くから日本の民謡や俗謡に用いられてきたヨナ抜き音階が採用されている点が挙げられます。これにより、昔ながらの魚屋が持つ素朴な雰囲気が効果的に表現されています。また、楽曲のリズムについては、作曲者の山口保治の妻（徳島県出身）が、後に阿波踊りの三味線の伴奏からヒントを得たと証言しています。

誕生からレコード化への道のり

作詞を担当した加藤省吾は、1937年6月にこの詞を完成させました。かつて静岡県富士市に住んでいた彼は、田子浦海岸で漁師が天秤棒を担いで魚を運ぶ姿を記憶していました。その後、群馬県伊勢崎市の山道を自転車で走っている際にその光景を思い出し、それを子どもたちの見立て遊びの情景と結びつけることで、この詞を書き上げました。

完成した詞は1937年6月中に山口保治のもとへ届けられ、同年6月14日には曲が完成しました。その年の9月には最初のレコード収録が行われ、翌1938年3月に発売されました。加藤省吾は自身が主宰していた同人誌『童謡と唱歌』の1937年12月号に、詞とともに楽譜を掲載しています。

歌詞の追加とその背景

最初のレコード（8インチ盤）は3番までの歌詞で制作されましたが、1940年（昭和15年）に新たに10インチ盤が企画された際、収録時間の関係で歌詞の追加が必要となりました。このため、4番の歌詞が急遽作られることになります。加藤省吾は、時間の余裕がなかったことから、なんとレコードの収録当日にスタジオで4番の歌詞を書き上げたというエピソードが残っています。

社会への浸透と広がり

「かわいい魚屋さん」は発表以来、多くの人々に親しまれてきました。特にコロムビアレコードでは、1947年から1960年にかけて、小西悦代・井上喜美子、羽崎共子・大場博之、羽崎共子・小宮山幸子・根岸芳子といった様々な歌手によって複数回録音されています。この期間だけで、コロムビアにおけるレコードの累計販売数は50万枚近くに達する大ヒットとなりました。

その親しみやすい歌詞とリズミカルなメロディから、現在でもスーパーマーケットの魚売り場や、魚屋の訪問販売用の自動車などでBGMとして流れるのを耳にすることが多いです。

メディアへの露出も多く、NHKのテレビ番組「みんなの童謡」では、NHK東京児童合唱団の歌唱によって紹介されました。また、1982年にイタリアで開催された国際童謡コンクール「第25回ゼッキーノ・ドーロ」では、日本人参加者がこの歌を披露し、現地の言葉であるイタリア語詞（ジョルジオ・カラブレーゼ氏による）と日本語詞で歌唱され、国際的な舞台でも注目を集めました。

関連情報

この童謡をもとにした絵本も出版されています。1952年には、加藤省吾の詩に岩本陽介が絵を描いた「コロムビアの童謡絵本 かわいいさかなやさん」がコロムビア出版社から刊行されました。

また、この歌に関する詳細な記述は、渋谷清視著『童謡さんぽ道 下』（鳩の森書房、1979年）などの文献にも見られます。

インターネット上では、山野さと子による歌唱がYouTubeなどで公開されており、多くの人が気軽に歌に触れることができます。

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