山口保治

山口保治（やまぐち やすはる）

日本の作曲家、山口保治は1901年10月20日に愛知県豊川市で生を受け、1968年7月24日にその生涯を閉じました。特に子どもたちのための音楽、いわゆる童謡の分野で多大な功績を残した人物です。

故郷の愛知県で青春時代を過ごした山口は、愛知県立第四中学校（現在の愛知県立時習館高等学校）を卒業後、音楽の道を志しました。1923年には東京音楽学校（現在の東京藝術大学）の甲種師範科に入学し、音楽教育者および作曲家としての基礎を築きます。卒業後は、福井高等師範学校などで教鞭を執り、教育者としての経験を積みました。

彼の作曲家としてのキャリアにおける大きな転機となったのは、童謡作品でした。特に、1941年に発表した「さよなら三丁目」は、童謡としては史上初めて文部大臣賞を受賞するという快挙を成し遂げ、日本の童謡界においてその名を確立しました。これは、童謡というジャンルが芸術として認められる上で、非常に重要な出来事でした。

太平洋戦争中の1944年（昭和19年）には、故郷である愛知県豊川市国府町へ疎開しました。この地で、山口は地元の国府高等女学校（現在の愛知県立国府高等学校）の教員を務めながら、作曲活動を継続しました。戦後も精力的に創作活動を展開し、その作品は多くの人々に親しまれました。1961年には、作詞家・高田三九三との共作「かかしのねがいごと」が、第3回日本レコード大賞の童謡賞を受賞し、童謡における第一人者としての地位を確固たるものにしました。

山口保治が生み出した童謡は数多く、その中には現在も歌い継がれている名曲が少なくありません。代表的な作品としては、詩人・まど・みちおとの共作「ふたあつ」（1936年）、加藤省吾作詞の「かわいい魚屋さん」（1937年）、結城よしを作詞の「ナイショ話」（1939年）などがあります。また、受賞作である「さよなら三丁目」（作詞：斎藤信夫）や「かかしのねがいごと」（作詞：高田三九三）も広く知られています。

童謡以外にも、彼は多くの校歌を作曲しています。故郷の豊川市立西部中学校（1950年）や、越谷市立大沢小学校（1966年）など、教育現場とも深いつながりを持ち続けました。

山口保治に関連する逸話として、広く親しまれているピアノ曲「猫踏んじゃった」の後半部分を作曲したという説があります。この曲は元々ヨーロッパに伝わるごく短い旋律でしたが、山口がその後の部分を付け加えたことで、現在の形になったとされています。この説の真偽は定かではありませんが、彼がいかに子どもたちに親しまれる音楽に寄り添っていたかを示す興味深い話と言えるでしょう。

山口保治は、その生涯を通じて子どもたちのための音楽、特に童謡の普及と発展に尽力しました。彼の作品は、今も多くの人々の心に温かい光を灯し続けています。

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