きみまち阪周辺の戦い

きみまち阪周辺の戦い

きみまち阪周辺の戦いは、戊辰戦争における秋田戦争の一部であり、奥羽越列藩同盟に属する盛岡藩と、久保田藩を中心とする新政府軍が激突した戦いです。この戦いは、出羽国山本郡のきみまち阪周辺で行われました。ただし、「きみまち阪」という名称は明治天皇が1881年に命名したもので、当時はまだ存在していませんでした。

盛岡藩は当初、大館城を攻略するなど連戦連勝で久保田藩領を進軍していましたが、この地での戦いで初めて敗北を喫することになります。

戦いの経緯

慶応4年8月22日（1868年10月7日）、盛岡藩は大館城を攻略。これを受け、久保田藩はただちに部隊を再編成し、奥羽鎮撫隊総督府に報告しました。総督府は佐賀藩の田村乾太左衛門を総指揮官に任命し、小城藩からの援軍や船川港に到着した援兵を率いて現地へ派遣しました。

盛岡軍は8月23日に休兵。翌24日、一部の兵が前進を開始しました。楢山佐渡率いる本隊や雪沢口、大葛村から進軍した部隊など、大館城攻城戦に参加しなかった部隊も多く存在しましたが、楢山はこれらの部隊を前進させませんでした。雪沢口の足沢内記と三浦五郎左衛門は、鬼ヶ城から撤退後、戦闘準備を進めていましたが、大館城攻城戦に遅れたため楢山から叱責を受け、弘前藩への備えとして白沢村の警備を命じられました。盛岡軍は、楢山隊が綴子村へ、祐橘隊が板戸村から鷹巣村を目指しました。楢山隊は8月25日に綴子村に到着しました。

同じく8月25日、田村は北部方面の総指揮官として、小城藩の藤本恒作、田尻宮内と会見しました。田尻は田村より官位が高かったものの、田村の指揮下に入ることに同意しました。田村は部下の生野小十郎を先遣隊として荷上場村へ派遣しました。荷上場村は、難所であるきみまち阪の手前に位置する宿場町です。

8月25日、盛岡軍は坊沢村まで進軍。翌26日には前山村を経て今泉村まで進みましたが、久保田軍の激しい抵抗に遭い、占領した今泉村に火を放って前山村まで撤退しました。生野小十郎は盛岡軍の攻撃準備を把握し、川原に台場を築かせました。盛岡軍は夜の間に薬師森を中心に陣を構築しました。

8月26日、間道から進軍した盛岡軍は大沢村を占領し、きみまち阪方面へ攻め込もうとしました。新政府軍の斥候隊は荷上場村で大館城代の佐竹義遵と面会し、状況偵察に出発。大沢村を占領した盛岡兵と遭遇し、新式銃で応戦して進路を阻みました。久保田軍は二階堂鴻之進と共に茱萸岱へ撤退し警備を行いました。盛岡軍は大沢村に放火して様子を窺いました。

8月27日、田村は荷上場村に到着し、盛岡軍が小繋本道を進行中との報告を受け、自ら現地を視察。「秋田への咽喉ともいうべき要害」であると兵卒を鼓舞して進軍しました。盛岡軍は薬師山や高津森を占領していましたが、小林隼人率いる部隊や佐賀藩兵が奮戦し、山上から敵を追い落としました。根本源三郎は高津森で苦戦しましたが、根本順助らの部隊が援護射撃を行いました。

『南部家記』によると、楢山佐渡隊は今泉村へ休陣した際、敵の銃撃を受け、大砲で応戦しましたが、地形が不利なため今泉村を放火して撤退したとあります。

8月28日、大沢村の盛岡兵は茱萸岱を攻撃できず、山道を越えて今泉村で一時休憩して撤退。『鍋島直大家記』には、大沢口に盛岡兵が襲来し、秋田兵が支えきれずに撤退寸前だったところへ佐賀藩兵が駆けつけたとあります。『戊辰戦役史』には、大沢が敵襲を受け、秋田援軍と佐賀藩兵5名が救援に向かったと記述されています。

小繋村の山を占領した盛岡兵は新政府軍の砲撃を受けて撤退。荷上場村には援軍が相次いで到着し、士気が高まりました。田村は軍議を開き、翌日の総攻撃を決定しました。

8月29日早朝は霧が深く、大沢口の間道は盛岡軍の進軍を防ぐために切り倒された杉の巨木が障害となっていました。本道では、前山村で朝食中の盛岡軍を攻撃し、大砲2門と小銃3挺を奪って撤退させました。坊沢村に進撃した久保田軍は、伏兵の攻撃を受けましたが、盛岡軍を坊沢村へ追い詰めました。

大沢村からの間道を進んでいた部隊は、坊沢村の背後から盛岡軍を攻撃。本道、米代川筋、背後からの攻撃に耐えきれず、盛岡軍は敗走しました。久保田軍は綴子村の盛岡軍を攻撃し、盛岡軍は綴子村に火を放って撤退しました。

大沢村での戦闘の話題

盛岡軍の最高到達地点である大沢村には、いくつかの言い伝えが残されています。

久保田軍は羽州街道の間道を封鎖していましたが、盛岡軍は滝の沢を通るルートで大沢村に迫りました。二階堂鴻之進は農民を指揮して山崎の高台に陣を構えましたが、農兵は緊張のあまり遠距離から発砲してしまい、盛岡兵は高台に移動。農兵は蜘蛛の子を散らすように逃げ去りました。8月28日には、この部隊と茱萸岱の部隊との間で戦闘が行われました。

滝の沢を侵攻した盛岡軍の中に、赤子を抱いた女性がいたという話も残っています。また、軍列から離れた兵士が農民に捕らえられ、鷹巣で処刑されたという話も伝えられています。

脚注

※本記事は、参考文献に挙げた資料を参考に作成しました。より詳細な情報については、これらの資料をご参照ください。

参考文献

二ツ井町史稿 No.19 戊辰戦争と二ツ井、1998年、二ツ井町教育委員会
佐賀藩戊辰戦史、1976年、宮田幸太郎

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