くま型巡視船

くま型巡視船：戦後日本の海上保安体制を支えた小型巡視船

誕生の背景：混乱期の海上警備

1948年、連合国軍占領下の日本において、海上保安庁が設立されました。しかし、庁が保有する船艇は、老朽化した旧軍艦や急造船が中心で、十分な警備・救難体制を整えるには程遠い状況でした。

1949年度から、海上保安庁向けの新型船の建造が始まりました。当初は大型・中型船の整備に重点が置かれましたが、1949年12月、GHQ（連合国軍最高司令官総司令部）から、小型巡視船の建造指示が出されました。これは、アメリカ沿岸警備隊のアクティブ級カッターを参考に、小型で運用が容易な船艇を建造するというものでした。

設計と建造：制約と工夫

GHQの指示に基づき、浦賀船渠を中心に設計が進められました。当初は240トン型が想定されていましたが、日本の近海の厳しい海況を考慮し、最終的には270トン型に拡大されました。

建造にあたっては、短納期という制約がありました。そのため、全溶接式という当時としては珍しい工法が採用され、設計変更も繰り返されました。小型ながら450トン型と同等の任務をこなす必要があったため、凌波性を高める設計が施されました。しかし、居住性については犠牲になり、居住空間の狭さや、防寒・防滴対策の不足が課題となりました。

2番船の「ふじ」からは、軽量化のためにアルミニウム合金の導入が試みられました。また、朝鮮戦争の勃発を受けて、巡視船の運用について軍艦準拠の考え方が浮上し、防火対策や兵装搭載などが考慮されるようになり、居住性は更に悪化しました。竣工後、居住性の改善策が講じられましたが、十分なレベルには達しませんでした。

「のしろ」以降の船では、船橋構造物や居住区の拡張・改良が行われ、搭載艇の位置も変更されました。これらの船は、特に「のしろ型」として区別されることもあります。

機関：信頼性と効率性

機関部についても軽量化が求められましたが、曳航能力を確保するため、信頼性の高い600回転・400馬力の4サイクル中速ディーゼルエンジンが採用されました。溶接架構の採用は戦後初のことでした。発電機は、保守性と振動対策から600回転の3気筒エンジンが採用されましたが、追加建造分では750回転のものが導入され、後に改造が行われました。燃料の質の悪さへの対策として、補助ボイラーが搭載されました。操舵装置は電動手動式でした。

装備：レーダーと武装

本型はレーダーを搭載した設計でしたが、大量建造による在庫不足のため、就役時に搭載されず、後日装備された船もありました。武装は、60口径40mm単装機関砲が後日装備されましたが、一部の船では後に20mm単装機関砲に換装されました。搭載艇は、アクティブ級の特徴を色濃く残しており、船外機付きのカッターが搭載されました。就役後、カッターは救命艇に、そして後に膨張式救命いかだに換装されました。また、高速機動艇の追加搭載も行われました。

まとめ：困難な状況下での建造

「くま型」巡視船は、戦後の混乱期、GHQの要請、そして朝鮮戦争の勃発という厳しい状況下で建造されました。小型ながら様々な工夫が凝らされ、日本の海上保安体制を支えましたが、居住性の問題など、多くの課題を残しました。その歴史は、戦後日本の海上保安体制の歩みを知る上で貴重な資料となっています。

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