くらやみ祭

くらやみ祭りは、東京都府中市に鎮座する大國魂神社の例大祭として、毎年4月30日から5月6日の期間に盛大に催されます。かつて武蔵国の国府が置かれた当地の総社である大國魂神社の祭礼であり、その起源は千年以上前の武蔵国国府祭に遡るとされる、極めて歴史と格式のある祭りです。その伝統と規模が評価され、東京都の無形民俗文化財にも指定されています。

この祭りが「くらやみ祭」と呼ばれるようになったのは、かつて神聖な神事、特に神輿に御霊を遷して御旅所へ向かう儀式が、人目に触れないよう深夜、街の明かりを全て消した暗闇の中で行われたことに由来します。室町時代の文献には「五月会」として記録があり、江戸時代には既に江戸からの見物客も数多く訪れるほどの賑わいを見せていたことが、「江戸名所図会」にも描かれています。また、幕末に日本を訪れたスイスの外交官アンベールが、この祭りの詳細な様子を記録し、その様子を伝えるイラストも残しています。

現在のくらやみ祭りは、府中市の中心部全体を舞台とする壮大な祭りとして知られています。期間中は約70万人もの人々が訪れ、熱気に包まれます。祭りのクライマックスは5月5日の夕方から深夜にかけて行われる「神輿渡御」です。直径2メートルを超えるものを含む六張りの勇壮な大太鼓が先導し、武蔵国の主要な神社に由来する六之宮までの神輿に加え、大國魂神社の本社神輿、御霊宮神輿の計八基の神輿が、かつての甲州街道を中心に勇壮に練り歩きます。各町内からは独自の山車が繰り出し、府中の郷土芸能である府中囃子（目黒流、船橋流）が鳴り響き、祭りの雰囲気を一層高めます。

大國魂神社の歴史と格式は、徳川家康が江戸を開いて以降に創建・移築された都内の主要な神社仏閣と比べても遥かに古く、その例大祭であるくらやみ祭りにも、古式ゆかしい伝統が色濃く受け継がれています。祭りが暗闇で行われるという独特の慣習は、「神聖な存在に直接触れることを避ける」という古来の思想に基づく儀礼に由来します。神社の御霊が神輿に移り、御旅所へ渡るという神事の最も重要な部分は、人目に触れない暗闇でなければならないという伝統が、現代まで大切に守られているのです。神輿渡御の開始時間は、江戸時代には深夜でしたが、時代の変化に応じて柔軟に見直されてきました。例えば、かつて祭りの期間中、近隣の東京競馬場でのレースが警備上の都合から自粛されていましたが、神輿渡御の開始時間が変更されたことで、現在は開催されるようになっています。

祭り期間中には様々な神事や行事が行われます。4月30日には、神職らが品川の海で身を清め、祭りに使う海水を持ち帰る「品川海上禊祓式（汐汲み）」が行われます。5月3日には、千年以上続く歴史を持つ古式行事「競馬式（駒くらべ）」で、烏帽子直垂姿の騎手が馬を走らせます。また、同日夕方には各町の山車による「府中囃子の競演会」が催されます。4日には手作りの美しい花萬燈の出来栄えを競う「萬燈大会」や、夜には山車行列が街を巡行します。そして5日の例大祭当日、最も重要な祭典が執り行われた後、夕刻にいよいよ御霊遷しを経て神輿発御、そして深夜の御旅所への到着、翌6日の早朝の還御、そして御霊を本殿に戻す鎮座祭をもって、一連の祭りが無事終了となります。

また、くらやみ祭りは文化的な側面でも注目されています。司馬遼太郎の代表作『燃えよ剣』の冒頭シーンの舞台となったり、この祭りをテーマにした映画が制作されたりしています。京都の県祭りも同様に暗闇で行われる祭礼として知られており、くらやみ祭りの独自性と歴史の深さを示唆しています。

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