くるま宿

『くるま宿』

松本清張による短編小説『くるま宿』は、1951年12月に『富士』に発表され、後に1959年に『刃傷』という短編集に収められ、東都書房から刊行されました。物語の舞台は、明治9年の初秋。東京の柳橋近くにある人力車の俥宿「相模屋」が背景となっています。この作品は、経済的な困難に立ち向かう人々の姿や、優れた人間性の重要性を浮き彫りにしています。

あらすじ

物語は、年配の男・吉兵衛が病気の娘の治療費を稼ごうと、「相模屋」へ俥挽きとしての雇用を求めて訪れるところから始まります。親方の清五郎は彼を受け入れ、吉兵衛は若い俥挽きとして懸命に働き、次第に周囲からの信頼を得ていきます。

ある晩、相模屋のお得意先である料亭「竹卯」が危機にさらされ、刀を持った士族たちが襲撃してきます。女中が相模屋に助けを求めると、吉兵衛は一人でその士族たちを取り押さえます。その後、竹卯の女将と越後屋の旦那から、吉兵衛に自分たちのもとで働いてほしいと申し出がありますが、彼は頑なにそれを断ります。

一方、相模屋の若い俥挽き・辰造は、他の車夫に侮辱され、再度対立が発生します。しかし、この車夫の雇い主が太政官五等出仕の久能孝敏であることが判明し、辰造は不安な状況に置かれます。その後、相模屋の俥挽きたちは久能の屋敷に乗り込もうとし、その中に吉兵衛も加わります。

吉兵衛の存在感と、彼が持つ深い背景がクライマックスを迎え、久能は相模屋を訪れ、無礼を謝罪します。親方の清五郎はここで吉兵衛の過去や正体を知り、物語はしっかりとした結末を迎えます。

エピソード

この作品は、松本清張の独自の視点からの人間描写が光ります。『富士』の編集長である萱原宏一は、長谷川伸の著作に影響を受け、本作が執筆されるきっかけとなったことを語っています。

テレビドラマ化

『くるま宿』は1960年と1968年の2度、テレビドラマ化されています。1960年版はKRテレビの枠で放送され、多くのキャストが参加しました。

一方、1968年版はTBSテレビで放送され、山村聡や淡島千景ら豪華なキャスト陣が魅力を引き出しました。特に、吉兵衛役の山村聡はその存在感で視聴者の心に深く刻まれ、作品に大きな貢献をしました。

まとめ

松本清張の『くるま宿』は、単なる短編小説を超え、明治時代の人々の生き様や人間関係の本質を描き出す力強い作品です。現在でも多くの人々に愛され続け、その物語は読み継がれています。

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