くれないホテル

くれないホテル

「くれないホテル」は、日本の歌手、西田佐知子によって1969年4月にシングルとして発表された楽曲です。このシングルは日本グラモフォン（現在のユニバーサル ミュージック ジャパン）よりリリースされました（品番：SDR-1426）。

楽曲の背景

この楽曲の作曲および編曲を手がけたのは、当時まだキャリアをスタートさせたばかりであった作曲家の筒美京平氏です。作詞は橋本淳氏が担当しました。この橋本・筒美コンビは、同じ時期にいしだあゆみ氏の歌唱で大ヒットを記録した「ブルー・ライト・ヨコハマ」も生み出しており、当時の日本の音楽シーンにおいて注目を集めるコンビでした。

評価と反響

商業的な成功という点では、「くれないホテル」はチャート最高位81位と、当時の他のヒット曲に比べて振るいませんでした。しかし、その後の日本の音楽界において、この楽曲は多くの著名な音楽家たちから非常に高い評価を受けることになります。この点が、「くれないホテル」を単なる売れなかった曲で終わらせず、長く語り継がれる名曲たらしめている所以と言えるでしょう。

具体的には、以下のような音楽家たちがこの曲への賞賛を公言しています。

細野晴臣氏: 自身の音楽的嗜好を語る中で、数ある筒美京平作品の中から最も好きな10曲を選出した際に、「くれないホテル」を第1位に挙げています。
松本隆氏: 作詞家として筒美京平氏と交流のあった松本氏は、筒美氏と親しくなった初期の頃にこの曲の素晴らしさを伝えたところ、筒美氏から「ああ、あの売れなかった曲ね」という自嘲気味な返答があったというエピソードを明かしています。これは、創作者自身にとっては商業的な結果が記憶に残る一方で、聴き手である他の音楽家にとっては純粋に楽曲の魅力が強く印象づけられているという興味深い対比を示しています。
坂本龍一氏: 2008年に放送されたあるFMラジオ番組の中で、坂本氏は筒美京平氏の作品を振り返る際に、「くれないホテル」をお気に入りの楽曲の一つとして挙げています。
山下達郎氏: 筒美京平氏の功績をまとめたCD-BOXの解説書に掲載されたインタビューにおいて、山下氏も「くれないホテル」を好きな作品の一つとして特筆しています。特に、歌詞の最後のリフレイン部分である「ホ・テ・ル」のメロディーに使われているメジャー7thの響きが非常に印象的であると、具体的な音楽的要素に言及して称賛しています。

これらのエピソードから、「くれないホテル」が単なる流行歌としてではなく、音楽的な構造や表現の面で同業者から高く評価されていたことがわかります。

収録曲と再収録

シングルのB面には、「通り過ぎた恋」が収録されています。こちらは作詞を水木かおる氏、作曲・編曲を伊部晴美氏が担当しました。

「くれないホテル」は、西田佐知子氏の複数のベストアルバムや全曲集に繰り返し収録されています。また、作曲者である筒美京平氏の活動40周年を記念してリリースされたCD-BOX『THE HIT MAKER -筒美京平の世界-』（2006年）にも、その膨大な作品群の中から厳選されて収められており、作曲家にとっても重要な作品の一つであることがうかがえます。

カバー

この楽曲は、その評価の高さから、時代を超えて多くのアーティストによってカバーされています。代表的な例としては、ザ・ピーナッツ（1971年）、奥村チヨ氏（発売年不明）、梶芽衣子氏（1979年）、内海みゆき氏（1988年）、ムーンライダーズ（1995年）、松本伊代氏（2021年）、おかゆ氏（2023年）などが挙げられます。それぞれのアーティストが独自の解釈でこの名曲を歌い継いでおり、「くれないホテル」の普遍的な魅力が示されています。

商業的なヒットとは異なる形で、多くの音楽家たちの心に響き、後世まで歌い継がれる「くれないホテル」は、日本の歌謡曲史における隠れた傑作と言えるでしょう。

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関連項目

1969年の音楽
筒美京平
西田佐知子
橋本淳
ブルー・ライト・ヨコハマ
メジャーセブンス

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