こぐま座ベータ星

コカブ (こぐま座β星)

こぐま座β星は、夜空に輝く恒星の中でも比較的明るい2等星です。こぐま座の中で「小北斗七星」とも呼ばれる星の並びを構成する一つであり、あたかもひしゃくで水をすくうような形状の先端に位置しています。

歴史的な役割：過去の北極星

この星が特に注目されるのは、その歴史的な役割にあります。地球の自転軸の向きが約26,000年の周期で変化する歳差運動により、天の北極の位置は時間とともに移動します。紀元前1500年頃から西暦500年頃にかけての長い期間、こぐま座β星はこぐま座γ星と共に、天の北極に最も近い明るい星として「北極星」の役割を担っていました。それ以前の北極星はりゅう座のアルファ星（トゥバン）、そしてその後を引き継ぎ、現在私たちが北極星として認識しているのがこぐま座のアルファ星（ポラリス）です。

恒星としての特徴

コカブは、中心部での水素核融合反応を終え、現在はより重いヘリウムによる核融合へと移行している段階にあると考えられています。これは、恒星が主系列星の段階を終え、次の進化段階に進んでいることを示唆しています。また、この星はバリウム星と呼ばれる特殊な恒星に分類されます。バリウム星は、通常では星の表面には少ないはずのバリウムなどの重元素が過剰に検出される特徴を持つ星です。この特異な組成は、かつてコカブと連星系を成していた伴星が、進化の最終段階で膨張し、重元素を含む物質を放出した際に、コカブがそれらを吸収した結果であると考えられています。

名称の由来と文化的な側面

こぐま座β星の正式な学名はβ Ursa Minoris（略称β UMi）ですが、広く知られている固有名はコカブ（Kochab）です。この名前は、アラビア語で「北の星」を意味する表現「アル・カウカブ・アル・シャマリー (Al kaukab al shamaliyy)」に含まれる「カウカブ (kaukab)」（星）という言葉に由来するという説が有力です。また、別の説として、現在の北極星ポラリスの古名「アルルカバ (Alrucaba)」に関係があるとも言われています。国際天文学連合（IAU）の恒星命名ワーキンググループは、2016年7月20日にコカブをこぐま座β星の固有名として正式に承認しました。

こぐま座β星は、こぐま座γ星と共に「極の守護者 (Guards of the Pole)」という愛称でも呼ばれています。これは、現在の北極星であるポラリスに、肉眼で見える明るさの星の中で最も近接しているためと考えられています。

中国の伝統的な星官においては、北極を中心に配された「北極五星」の一つ、「帝」にあたります。これは、宇宙を統べる最高神である天帝、すなわち天皇大帝と同一視され、その周囲を北斗七星などの他の星々が取り囲み、守護しているという宇宙観の中心的な存在とされました。

惑星系の発見

現代天文学の観測により、2014年にはコカブの周囲に太陽系外惑星が一つ発見されています。

コカブは、位置、明るさ、歴史的な重要性、物理的な特異性、そして文化的な象徴性という多角的な側面を持つ、興味深い恒星と言えるでしょう。

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