この私、クラウディウス

ロバート・グレーヴズ作の『この私、クラウディウス』は、1934年に出版された歴史小説であり、その続編『神、クラウディウスとその妻メッサリーナ』と合わせて、世界中でベストセラーとなり、1976年にはBBCでテレビドラマ化もされました。この作品は、第4代ローマ皇帝クラウディウスの自伝という体裁をとっており、ユリウス・クラウディウス朝初期の権力闘争を、クラウディウス自身の視点から克明に描き出しています。

クラウディウスは、身体的なハンディキャップを抱えていたため、若き頃は皇帝候補として注目されることはありませんでした。そのため、宮廷の陰謀にも巻き込まれることなく、歴史家としての道を歩みます。『エトルリア史』や『カルタゴ史』といった歴史書を著し、さらに自伝も記したと伝えられています。グレーヴズはこの小説を、クラウディウスが公には語ることができなかった真実を書き記した「第二の自伝」として描いたのです。

物語は、クラウディウスの幼少期から始まり、アウグストゥス帝、ティベリウス帝、カリグラ帝ら、数々の皇帝や権力者たちの暗躍や陰謀が展開されます。登場人物は、実在の人物を基にしながらも、小説の都合上、名前が変更されていたり、史実とは異なる描写がなされていたりする場合もあります。例えば、物語に登場する主要人物の名前は、史実の人物と区別しやすくするために、小説独自の名称が与えられています。クラウディウス自身、同姓同名の人物が多く存在したため、著述に苦労したと述べています。

グレーヴズは、タキトゥスの『年代記』やスエトニウスの『ローマ皇帝伝』といった主要な歴史資料を基にしながらも、大胆な解釈を加え、フィクションとしての面白さを追求しています。劇中に登場する数々の予言は、物語全体にミステリアスな雰囲気と、先の読めない展開を生み出しています。

主な登場人物としては、主人公のクラウディウス、初代皇帝アウグストゥス、クラウディウスの母アントニア、クラウディウスの姉リウィッラ、クラウディウスの祖母リウィア、そしてティベリウス、カリグラ、セイヤヌスといった、ユリウス＝クラウディウス朝を彩った重要人物たちが登場します。それぞれのキャラクターは、クラウディウスの視点を通して、その個性や能力、そして隠された欲望や野望が鮮やかに描き出されています。

クラウディウスは、吃音症で病弱であり、片足を引きずっていましたが、鋭い観察力と知性、そして共和主義的な思想を持っていました。彼は、宮廷の陰謀や権力闘争を冷静に分析し、自らの生き方を選びます。彼を取り巻く人々の複雑な人間関係、それぞれの思惑、そしてローマ帝国の興亡の過程が、スリリングかつ緻密に描かれているのです。

この小説は、単なる歴史小説という枠を超え、人間ドラマとして、そして政治サスペンスとして、読者の心を強く捉えます。権力闘争、陰謀、愛憎、そして運命。これらの要素が複雑に絡み合い、クラウディウスの波乱万丈な人生と、ローマ帝国の運命が深く結びついた、読み応えのある作品です。さらに、歴史的事実に基づいて書かれているため、ローマ帝国の歴史に興味のある方にもおすすめです。

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