こんな夜は

松山千春のキャリアにおける初期の重要な作品として位置づけられるセカンドオリジナルアルバム『こんな夜は』（こんなよるは）は、1978年1月25日に発表された。前作『君のために作った歌』から約1年を経て世に出た本作は、当時の彼が追求していた音楽性を色濃く反映している。

このアルバムの大きな特徴の一つは、リリース前にシングルとして発表されヒットしていた「時のいたずら」、そしてそのシングルのカップリング曲である「白い花」が、アルバム本編には収録されていない点にある。これは、シングルとは異なる、アルバムという媒体ならではの楽曲の配列や流れ、世界観を構築しようとする意図があったためと考えられる。個々のヒット曲に依らず、アルバム全体で一つの作品として聴かせることを重視した姿勢がうかがえる。

『こんな夜は』は、長年にわたり多くのリスナーに聴き継がれてきたため、様々なフォーマットで再発されている。特に、時代の変化に伴うメディアの進化に合わせて、幾度となくコンパクトディスク（CD）として改めて発表されてきた歴史がある。初めてCD化されたのは1983年のことで、これは日本の音楽ソフトがアナログレコードからデジタルメディアへと移行していく初期の段階にあたる。その後も、音質の向上を目指したゴールドCD（1989年）、より一般的な価格設定の通常盤CD（1990年）、そして広範な層への普及を企図した「CD選書」（1994年）といった形で再リリースが重ねられた。興味深いのは、これら1983年から1994年にかけて発表されたCD盤には、共通した音源処理が施されていたことである。具体的には、デジタル初期の規格として用いられることがあったプリエンファシス処理が施されており、どの盤も基本的な音質特性においては一貫していた。この処理は、再生機器側での補正を前提とするもので、当時の録音やマスタリングの特性を反映していると言える。しかし、大きな変化が訪れたのは2007年の再発時である。この時、アルバムは紙ジャケット仕様でリリースされると共に、最新のデジタルリマスタリングが新たに実施された。これにより、過去のCD盤とは一線を画す、よりクリアで現代的な音質の向上が実現された。アナログマスターテープから改めてデジタルデータ化し、最新の技術で音質の調整や最適化を行うこのリマスタリング作業によって、楽曲の持つ魅力がより鮮やかに引き出されることとなった。さらに、音楽ソフトの高音質化が進む中で、2019年にはUHQCD（Ultimate High Quality CD）仕様でも再登場。これは、より高品位な素材や製造技術を用いることで、CD規格ながら音質を最大限に追求したものであり、現在入手可能な最も新しいオーディオファイル向けの形態の一つとなっている。このように、『こんな夜は』は、時代の技術変遷と共に音源も進化を遂げてきた作品と言える。

本作の制作にあたっては、松山千春自身の歌唱とギター演奏に加え、以下の実力派ミュージシャンがレコーディングに参加し、楽曲に彩りを加えている。彼らの演奏が、アルバム全体のサウンドを形成する重要な要素となっている。

Drums：岡本あつお
Folk Guitar：安川ひろし、清須邦義
Electric Guitar：安川ひろし
Electric Bass：松本茂
Keyboard：倉田信雄
Percussion：中島御
Mandolin：清須邦義
Chorus：松山千春、清須邦義

本作が発表された1978年は、日本のポピュラー音楽においてフォーク、ニューミュージック、ロックなど多様なジャンルが交錯し、新たな才能が次々と登場した活気ある時代であった。松山千春自身も、この時期にその存在感を確立し、多くのリスナーを獲得していった。

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