こゝろ

こゝろ

夏目漱石による長編小説『こゝろ』は、彼の代表作の一つとして知られています。1914年に『朝日新聞』で連載され、その後同年に岩波書店から刊行されました。漱石自身が装丁を手がけたこの作品は、自費出版という形を借りながらも、岩波書店にとって記念すべき第一作となったのです。また、この作品は漱石の後期三部作の最後を飾るものでもあります。

連載からちょうど100年後の2014年に、再度同じ新聞上で連載が始まりました。新潮文庫版では、2016年の時点で718万部が発行され、同文庫内で最も売れた作品となっています。さらに、文庫や全集を合わせると1994年には2000万部を超える売上を記録しており、日本文学の中でも特異な存在感を放っています。

背景

漱石が『こゝろ』を執筆する際の影響として、乃木希典の殉死が挙げられます。この作品は、明治から大正という時代の変化を背景に、人間の持つエゴイスムと倫理観の葛藤を深く掘り下げています。明治天皇の崩御や乃木大将の殉死は、時代精神の変化を象徴しており、漱石は「明治の精神」が批判される未来を見据えていました。その結果、「先生」というキャラクターを通じて、その精神を殉死させる決断を下します。

元々、漱石は短編をいくつか執筆し、それらを『心』というタイトルでまとめる計画でした。しかし、短編「先生の遺書」が長くなり、その一篇だけを三部構成にすることを決め、作品名はそのままにしました。

あらすじ

物語は、「私」を語り手とし、上篇『先生と私』では、明治末期の鎌倉でお互い出会った「私」と「先生」の交流が描かれています。「私」は夏休みに鎌倉の海水浴場で「先生」と出会い、その後東京に戻ってからも交流を続けます。「先生」は静かな生活を送り、月に一度友人の墓参りをしています。

中篇『両親と私』では、語り手の父が腎臓病を患い、次第に衰弱していく様子が描かれます。「私」は東京行きの汽車に飛び乗り、父の元へ向かいます。これは、先生の遺書が届く前の大きな決断を示しています。

下篇『先生と遺書』では、「先生」の手紙が中心に据えられています。この手紙には、先生の生い立ちや、友人Kとの関係が語られ、全体を通して人間関係の悲劇が浮き彫りにされます。

登場人物

• - 私: 田舎の両親を持つ学生。酒と煙草を嗜む。
• - 先生: 東京で静かに暮らす人物。故郷は新潟。
• - 先生の妻（お嬢さん）: 名前は「静」。東京出身。
• - 父: 語り手の慈愛に満ちた父。
• - 友人K: 先生の友人。医者の家に養子に出された。

関連作品

『こゝろ』は様々なメディアで映像化されてきた作品であり、映画やテレビドラマ、さらには漫画としても展開されています。特に1955年の映画化や、2009年のアニメ化など、多くの解釈を受けてきました。また、舞台作品としても人気があり、多くの演出家によってたびたび上演されています。

『こゝろ』は、時代の流れと人間の本質を考察する深い作品であり、今なお多くの読者に愛されています。

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